ずっといっしょ


小さい頃・・・
夜空を見上げては、何処までも追いかけてくる月が不思議でしょうがなかった。
「お月様はいつも一緒だね」

ずっといっしょ

「じゃ、いってきまーす!」
今夜も砂沙美は待ち合わせの場所に急ぐ。
夜空を見上げるとおっきなおっきなお月さま。
砂沙美の走る後をどこまでもついてくる。
砂沙美は夜空を見上げて微笑んだ。

いつもの待ち合わせ場所。
美紗緒は塾の帰りに、そのままここに来る。
砂沙美は走ってやってくるのだが、決まって美紗緒は先に待っている。
「ごめ〜ん、美紗緒ちゃん」
「ううん、私も今来たところだから」
と言うのだった。

週末になると、二人は夜、待ち合わせをした。
持ち合わせるのは、お夜食と温かい紅茶の入った水筒、ふかふかの温かい膝掛け毛布。
それらをカバンに詰めて、二人はお気に入りのベンチのある公園に向かう。

目的は月光浴。

ひょんなきっかけで、二人は月に行った。
そして帰ってきた。
見上げたお月様・・・美紗緒は塾帰りに月を見上げた。
砂沙美はひとりきりの部屋から月を見上げた。
そして、いつからか二人は月光浴に出かけるようになった。

美紗緒と砂沙美はお気に入りの毛布を一緒に膝に掛け、マフラーも一緒に巻き、寄り添うように夜空を眺めている。

あの夜空に浮かぶお月さまがジュライヘルム・・・。
砂沙美の後をどこまでも一緒なお月さま。
それがあのジュライヘルム・・・。
二人は月を見上げながら、よくその事を話した。

この街には目立った高い建物がない。
その為、星々が綺麗に見えた。
「今夜のお月さま・・綺麗だね・とっても」
砂沙美はぽっかり浮かんだ月を見上げている。
「うん・・なんかお星様の海にお月さまが浮かんでるみたいだね」
美紗緒も月を眺めていた。
「美紗緒ちゃん、あの星」
砂沙美が指さす。
「どれ?砂沙美ちゃん・・」
「あ・れ・だ・よ♪」
砂沙美は美紗緒の頬に頬をくっつけて指さした。
「ひゃっ!?さ・砂沙美ちゃん」
美紗緒は驚いて小さく声を漏らす。
「えへへ、美紗緒ちゃんのほっぺた冷た〜い♪」
砂沙美は笑いながら頬をくっつける。
「砂沙美ちゃんのほっぺだって冷たいよぉ」
美紗緒もくっつけ返す。
「えへへ・・・ほら、あの星・・・ふたつならんでて、砂沙美と美紗緒ちゃんみたいだと思わない?」
「え・・どれどれ?・・あ、あれ?」
その星は一際輝いていた。
おっきく光る星の側に、すこし控えめな色で輝く星が一つならんでいる。
どちらの星も同じほどに輝いていた。
「お空でも砂沙美と美紗緒ちゃんは一緒なんだね♪」
砂沙美がそう言うと、美紗緒の表情が一瞬曇った。
砂沙美もその表情に気が付いた。
一瞬の沈黙・・・。
「ねぇ・・砂沙美ちゃん」
美紗緒は改まったように話しかける。
「なに?美紗緒ちゃん」
二人お揃いのにんじん柄のマグカップには温かいミルクティー。
美紗緒はミルクティーを軽く飲み、話し始めた。
「砂沙美ちゃん・・・私・・怖いの・・」
美紗緒は夜空を見上げる。
瞳に星が映る。
「・・・怖い?」
砂沙美もミルクティーを飲む。
「・・・うん。
いつか・・・いつか、砂沙美ちゃんが私の側から居なくなっちゃう様な気がするの・・・」
美紗緒は怯えたように続ける。
「鳥さんや魎皇鬼ちゃんもあの・・ジュライヘルムに帰っちゃったみたいに、砂沙美ちゃんもいつか・・いつか・・・私の知らないところに行っちゃう様な気がして・・・私・・・私怖いの・・・」
脚の上で大事そうにマグカップを抱えた両手が小刻みに震えている。
「美紗緒ちゃん・・・」
「ダメだよね・・いつまでも砂沙美ちゃんに頼ってばっかりじゃいけないってわかってるのに・・・でも、砂沙美ちゃんが居なくなっちゃったら・・・私・・・わたし・・・」
美紗緒はうつむく。
砂沙美はミルクティーを飲み干し、カップを脇に置いて言った。
「美紗緒ちゃん・・・手袋とって」
砂沙美は微笑んでいる。
「え・・うん・・」
美紗緒は呆気にとられたようだが、砂沙美の言う事に従った。
砂沙美も手袋を外す。
「砂沙美ちゃん・・・これでいいの?」
美紗緒は砂沙美に手を差し出す。
「うん・・・美紗緒ちゃん・・・」
「え!?」
砂沙美が美紗緒の手を握った。
「さ、砂沙美ちゃん・・・」
美紗緒は少し驚いたような表情を見せている。
そして、砂沙美はゆっくり話し出した。
「美紗緒ちゃん・・・砂沙美も・・・砂沙美もね、少し怖かったんだ・・・。
美紗緒ちゃんが居て、パパとママが居て、魎ちゃんが居て・・・。
砂沙美、楽しい毎日がずっとずっと続くと思ってたんだ。
でも。
魎ちゃんはジュライヘルムに帰っちゃった・・・。
砂沙美、その時思ったの。
パパもママも・・・・美紗緒ちゃんも・・・いつか居なくなっちゃって・・・砂沙美一人になっちゃっうんじゃないかなって・・」
砂沙美は繋いだ手を、じっと見つめながら話す。
「美紗緒ちゃん・・・わかる?」
「え・・」
「砂沙美・・・手が震えてるの・・・寒いからじゃないよ。
砂沙美も・・・砂沙美も怖いの・・・美紗緒ちゃんが・・・美紗緒ちゃんが砂沙美の知らないところに行っちゃうなんて嫌なの・・・怖いの・・・」
砂沙美の声が少しかすれたように聞こえる・・・。
「砂沙美ちゃん・・・」
美紗緒は砂沙美の手を握り返した。
「み、美紗緒ちゃん・・」
「砂沙美ちゃんも同じなんだ・・・。
それなのに・・・ごめんね、砂沙美ちゃん。
わたしばっかり・・・わたしばっかり頼っちゃって・・」
「そんなこと無いよ!
砂沙美だって・・・砂沙美だって、美紗緒ちゃんが居てくれたから・・・美紗緒ちゃんが一緒に笑ってくれたから、頑張れたんだもん!」
握る手に力がこもる。
「砂沙美・・美紗緒ちゃんが居なくなっちゃうなんて、嫌だよ・・・美紗緒ちゃん・・・美紗緒ちゃん・・・」
繋がれた手・・・しばしの静寂・・・言葉がないままに時が流れる・・・
「砂沙美ちゃん・・・見て・・お星様・・・」
美紗緒は砂沙美に話しかける。
「お星・・さま・・?」
砂沙美が顔を上げると美紗緒が微笑んでうなづいた。
二人は夜空を見上げた。
一際輝く二つの星。
「あの星・・わたしと砂沙美ちゃんの星・・・」
美紗緒は続ける。
「わたし、わかったの・・・。
砂沙美ちゃんも私と同じ気持ちなんだって。
だから大丈夫なんだって・・・。」
美紗緒は微笑んでいる。
「・・・大丈夫?」
砂沙美は美紗緒の横顔を見つめている。
「砂沙美ちゃんも私も、同じくらい大好きなんだってわかったの。
だから、絶対居なくなったりしない。
あのお星様みたいに一緒に居られるんだって・・・」
美紗緒は砂沙美の方を向いて微笑んだ。
「美紗緒ちゃん・・・」
砂沙美も微笑む。
「美紗緒ちゃん・・・つよくなったね」
美紗緒は舌をちょろっと出して笑った。
「えへ・・今度は私が砂沙美ちゃんの力になりたいの。
これからも砂沙美ちゃんと一緒に居たいの・・・」
砂沙美もにこり笑う。
「砂沙美もだよ・・・美紗緒ちゃん・・・」
ぷっぷー
クラクションが響く。
「おーい!砂沙美!美紗緒ちゃん!迎えに来たぞ!」
銀次がバイクで迎えに来たのだ。
「あ、パパー!ちょっと待ってね!!」
二人は水筒や毛布を片づける。
誰もいないベンチに月の明かりが射す。
「パパ、お待たせー!!」
「よし!美紗緒ちゃんも準備は良いかな?」
銀次が声をかける。
美紗緒はぎこちない手つきでヘルメットをかぶり、
「はい!大丈夫です」
にっこり答えた。
「よぉし!行くぞー!」
『おー!!』

サイドカーに揺られながら二人は手を繋ぎあっていた。
見つめ合い、そして微笑んだ。
美紗緒がふと空を見あげる。
ぽっかり浮かんだ月。
まるで美紗緒を追いかけるようにどこまでも、どこまでもついてくる。
そう、それはまるで「デジャヴ」・・・

・・・お月様はいつも一緒だね・・・

気が付くと砂沙美が微笑んでいる。

・・・これからも・・一緒だよ・・・

月は何も言わずに、どこまでもどこまでも一緒だった。

おしまい



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