実用純正律理論

 私(井上)がこれまで研究してきた、純正律を実際の楽曲(主に合唱曲)に生かす方法を解説していきます。 具体的数値も掲載しますので、この理論を応用すれば、コンピュータ等で純正律演奏を行う事も可能になります。

 本文中の和音の表記法や和音の解釈法等は「和声 理論と実習」 13、 「総合和声 実技・分析・原理」(音楽之友社)に基づいております。

旋律のための音律和音のための音律(純正律)旋律と和音の整合協和と不協和の対比転調時の音高解釈/自然四和音の利用法

参考文献
「響きの考古学 音律の世界史」(音楽之友社)
「和声 理論と実習」13(音楽之友社)
「総合和声 実技・分析・原理」(音楽之友社)


2004/ 9/30更新
協和と不協和の対比

代表的な不協和音の解釈法

2和音の属7、属9和音

 次に5諸和音以外の属和音の解釈を行います。まずは2和音の属和音について。2和音の三度ずつ上の13を付加するとそれぞれ属7、属9和音となります。ただし、5和音以外の付加音は前の和音から保留される必要があります。

長調の例

 長調の場合、前の和音から保留された13と純正協和(構成音同士の音程関係全てが16/15より単純)を考慮すると根音は常に2低(10/9、182.4cent)と解釈される事になります。

例7
長調のII9を含む展開
T1 33 23
5/4×25/4×29/8×25/4×2
386.3+1200386.3+1200203.9+1200386.3+1200
T2 11 71
1/1×21/1×215/81/1×2
0.0+12000.0+12001088.30.0+1200
B1 54 55
3/24/33/23/2
702.0498.0702.0702.0
B2 12 51
1/110/93/2×1/21/1
0.0182.4702.0-12000.0

durの2waon属和音の構成音高
25/3×2/3=10/9182.4cent
41/1×2/3×2=4/3498.0cent
61/1×5/6×2=5/3884.4cent
11/10.0cent先行和音から保留
35/4386.3cent先行和音から保留

短調の例

 短調の場合は2waonの三和音がすでに純正協和しないため、根音の2は本来の 9/8、203.9centと解釈します。第三音、第五音は先行和音から保留される13と純正協和可能なのでそのままでよいでしょう。

例8
短調のII7を含む展開
T1 34 23
6/5×24/3×29/8×26/5×2
315.6+1200498.0+1200203.9+1200315.6+1200
T2 11 71
1/1×21/1×215/81/1×2
0.0+12000.0+12001088.30.0+1200
B1 56 55
3/28/53/23/2
702.0813.7702.0702.0
B2 12 51
1/19/83/21/1
0.0203.9702.00.0

 上例ではBass、Barが連続五度になっているようですが、後続の五度が減五度なので許容されます。

molの2waon属和音の構成音高
29/8203.9cent
41/1×2/3×2=4/3498.0cent
64/3×6/5=8/5813.7cent
11/10.0cent先行和音から保留
36/5315.6cent先行和音から保留

それ以外の属和音

 それ以外の各和音について。7waon以外の属7和音の場合は長短とも純正音階上の音程を重ねれば純正協和可能です。長調の7waonは純正協和しませんので、59waonの構成各音と同様と解釈します。
 短調の7waonの属7和音や各和音の属9和音については研究中です。


注意点

 上記では純正協和を念頭において解説を進めてきましたが、実際の楽曲上でこのように解釈する事が正しいとは必ずしも言えません。というのは、本項で何度か述べているように、西洋音楽では構造上、三和音以外は不協和音と解釈されています。また、不協和音の役割は、その特異な響きもさることながら、次の和音へ進行する力性を持っているという事が重要です。これは、不安定な響きから安定した三和音に解決しようとする事、付加音等の限定進行による次の音への移動欲求が楽曲にヨコの動きを想起するのです。
 そうすると、これらの付加和音はむしろ協和しない方が良い場合もあるという事です。

以下次回

はじめに

 本項を参照される上での注意点を記させて頂きます。近年、音楽理論を語る際、平均律蔓延の悪影響故か、オクターブ12音分割を前提に話を進める例が多いようですが、本項においてはそのような考えは根底から排除しております
 ここでは、より音楽の原点に立ち返り、各地方伝来の旋律に使用される、各音位間が不等分な五音階、七音階に和声効果が加わって発展し、転調やゆれ等の技法が加わって音楽が成立したという視点で考察し、そこに音響的な要素である純正和音を組み合わせて行きます。そのため、主に西洋音楽で使用されてきた長調、短調の七音階をベースに解説を進めていますが、日本の陽旋法、陰旋法等、ピタゴラス音律を元にする世界の様々な旋法にも応用可能だと考えています。


旋律のための音律

 純正律、和音の話を始める前に、旋律のための音律を歴史的に考察しておく必要があります。 なぜならば、旋律と和音では好まれる音律が違うからです。
 「響きの考古学 音律の世界史(音楽之友社)」によると、 音階を比率の組み合わせによって表現しようという試みは実に4000年も昔から行われていたそうです。 その中で、現在まで伝わっているピタゴラス音律が成立したのは古代ギリシア時代(約2500年前)との事です。
 ピタゴラス音律とは純正完全五度によって音程関係を決定するというものです。以下に具体的に解説してみましょう。
 まずは、基準となる一つの音(ここではドとします)を決めた上で、その音に対して3/2の周波数関係となる音をソと決めます。
(これを調整するのは容易です。同じ太さ、長さ、強さで張った弦を二つ用意し、 その片方の弦の2/3の位置を押さえて両方の弦を同時に弾きます。 そして、そのニ音を聞いて、唸りを生じなくなるように弦を押さえる位置か弦の張力を調整します。
 これをギターで試す方法があります。低い方から2番目の弦をラに合わせ、一番低い弦をミではなくレ(低く)に合わせるため、 張力を緩めながら2弦を同時に鳴らしていくと唸りがなくなる瞬間が発生します。そこが純正完全五度の点です。)
 そして、そのソからさらに3/2の周波数関係となる音をレとします。このレは最初のドよりオクターブ以上高い音なので、 オクターブ下の音にします。ソから見ると3/4の周波数関係となります。以下同じようにするとラ、ミが決められます。 ここまでの五音を並べ替えると日本の陽音階となります。
 この作業をさらに繰り返していくと、その後シ、 ファシャープ、ドシャープ、 ソシャープ、レシャープ、 ラシャープ、ミシャープ、 シシャープと完全五度関係の音が出来て行きます。 このシシャープの音は元のドより約23.46cent(平均律の半音の約1/4)高い音ですが、 これを同じ音とみなして作業を打ち切ったのがピタゴラス音律です。 オクターブを12音に分割するという慣例はこのピタゴラス音律に始まったと言えるでしょう。 (ちなみに、約23.46centの誤差を12個の五度に平均して分散させたのが12平均律です。)

 ところで、現在も長調、短調として使用されている七音階にピタゴラス音律を使用する場合、 ミシャープは高すぎるため、ドの完全四度上(完全五度下)、 4/3の周波数関係となるファの音を使用します。
 よって、ピタゴラス音律による七音階は以下の通りです。

ピタゴラス音律による七音階
ファ
1/19/881/644/33/227/16243/128
0.0203.9407.8498.0702.0905.91109.8
ド=1/1、0.0cent として表記

 この音階は全音(9/8、203.9cent)と半音(256/243、90.2cent)の2種類のみで構成されています。 この全音と半音の差が大きい事がピタゴラス音律を特徴付けており、 特に狭い半音が旋律に独特の色合いを与える効果を持っていて、この事が多くの人々の音感覚に適合しました。

 ところで、当時の音楽は単旋律の物が主流だったらしいですが、 現実の音楽には半音よりも狭い微分音程と呼ばれる音程幅が存在していました。 これらの音程幅はピタゴラス音律では表現できなかったため、 数比によらず、人の音感覚によって分割した音程幅を単位とした音律決定の試みも行われました。 また、比率の組み合わせによって表現する試みも行われました。 その後、紀元1世紀頃には微分音程は淘汰され、ピタゴラス音律のみが後世に伝えられて行きました。
 この理由はピタゴラス音律による旋律効果が当時の人々の音感覚に合致したためと「響きの考古学」に記述されていますが、 それと同時に、ピタゴラス音律による音階決定方法が比較的簡単で、しかも時、場所を問わず、 同じ操作によって同じ効果を得られるという事が、広まっていくための大きな要因ではなかったかと想像します。 (人間の音感覚は個人差があるため、行う人、時、場所によって同じ結果がでるとは限らない)

 また、この純正完全五度によって音律を決定するという方法は中国(三分損益法)や日本(順八逆六)でも昔から存在しており、 ピタゴラス音律の音程幅が欧州、中国、日本の人々の音感覚に受け入れられていたと言う事が出来ます。 無論、あくまで各民族の音感覚が大元にあり、その好まれる音感覚を数値として固定していく過程で創られたのが音律であり、 その創られた音律が人々に受け入れられる事によって、音楽の基盤として受け継がれて行ったという事は指摘しておくべきでしょう。
 例えば、アラブ圏ではピタゴラス音律のみでは人々の音感覚に合致せず、 ミフラット(32/27、294.1cent)とミ(81/64、407.8cent)の間に27/22、 354.5centの音を設定し、その音程幅がアラブ圏の人々に受け入れられたために、 こうした微分音(平均律やピタゴラス音律の半音よりも小さな音程幅)が音楽における重要な要素として受け継がれて行きました。

 話が逸れましたが、結論として、欧州、中国、日本の人々の旋律において好まれる音感覚はピタゴラス音律の全音(9/8、203.9cent)と半音(256/243、90.2cent)であると言えます。 ただし、私の経験によると、横の旋律の音感覚は縦の和音のそれに比べると許容範囲が広い(ようするにいいかげん)ので、 全音、半音とも多少の誤差があっても問題はないようです。
 その意味では、平均律の全音(200cent)、半音(100cent)を基準としても問題は余りないのですが、 以下の和音のための純正律と整合を図るために分数で表現可能なピタゴラス音律を主として話を進めて行きます。

 また、こうした旋律においてピタゴラス音律が好まれるという事は声楽や合唱において無意識に取り入れられております。例えば半音下がって半音戻るという旋律の場合、歌手や指導者はその半音を意識的に平均律よりやや狭く歌ったり、指導する例があります。これはそのように半音を狭く歌う方が聴衆への聞こえ方が良いという事を認識しているためです。他にも導音(シ−ドの進行)進行時にも同様の配慮が良く見られます。こういったテクニックはバイオリンにもあるようで、音程を耳で聞いて決める楽器には共通して存在するようです。


和音のための音律(純正律)

 10世紀以降、西洋音楽では旋律要素のみでなく、ハーモニーという縦の関係が取り入れられるようになりました。 当初はピタゴラス音律が包括している純正のオクターブ(2/1)、完全五度(3/2)、完全四度(4/3)のみが用いられていましたが、 やがて純正(長、短)三度が取り入れられていきました。ピタゴラス音律における三度は、長三度が81/64(407.8cent)、 短三度は32/27(294.1cent)といずれも複雑な比率になって心地よい協和を生み出しません。これに替わって、 より協和する三度(長三度、5/4、386.3cent、短三度、6/5、315.6cent)がハーモニーのなかに求められるようになりました。
 ここで指摘しておきたいのは、ここまでハーモニーとして見なされていたのはオクターブ(2/1)、完全五度(3/2)、 完全四度(4/3)と、2と3の素数の組み合わせによる比率の関係で表せるものであり、 ピタゴラス音律もそれを組み合わせて創られているので、音階各音の相対周波数比率は全て2つの素数の組み合わせで表現されます。 しかし、ここで登場した純正(長、短)三度はどちらも5の素数を比率に使用しています。 西洋音楽は主にこの3つの素数の組み合わせで作られる比率の和音を基盤として構成されて行きました。

 さて、それではこの純正和音を使用していく方法を古典和声学をベースに解説していきましょう。

基本和音

 三和音は音階のそれぞれの音の上に音階に沿った一つ飛ばしの音を二つ重ねたものになります。

基本和音dur
基本和音mol

 各和音の具体的な音高解釈についてはカデンツの原理から考察していきましょう。 古典和声学においては1waon和音が唯一の安定和音であり、 他の和音は全て不安定和音とされます。そのため、 1waon(T、トニック)からは音階のどの音を基音とする和音にも進む事ができ、 他の和音からは一定の法則に従って1waonに向かって進行していきます。 その法則は五度下の基音の和音に進行していくD(ドミナント)進行とその裏返しで五度上の和音に進行していくS(サブドミナント)進行です。

D進行:1waon4waon7waon3waon6waon2waon5waon1waon
T−D6−D5−D4−D3−D2−D1−T
S進行:1waon5waon2waon6waon3waon7waon4waon1waon
T−S6−S5−S4−S3−S2−S1−T

 しかし、常用範囲としては、長調では7waonが、 短調では2waonが完全五度をもたない事、 S進行が最小カデンツ以外、使用されなくなった事等から以下の3通りに簡略化されました。

K(カデンツ)1T−D−T
K(カデンツ)2T−D2−D−T
K(カデンツ)3T−S−T

 これらの機能に各和音が振り分けられる訳です。そこから各和音の具体的音高を解釈していきましょう。


1waon和音

 音階の基準となる1を基音とする三和音であり、 カデンツ、楽曲の終点として充分な安定性を求められます(T機能)。 そのため、その構成音の351に対して純正三度、 五度の関係と解釈できます。

1waonの構成音高
durの1waonmolの1waon
11/10.0cent 11/10.0cent
31/1×5/4=5/4386.3cent 3フラット1/1×6/5=6/5315.6cent
51/1×3/2=3/2702.0cent 51/1×3/2=3/2702.0cent

5waon和音

 この和音は常にDとして機能します。 1waon5waon1waonというK1の最小カデンツを考えてみましょう。これは短い音符で進行する場合、 5の音を保留した上で13音が下方転位(ゆれ)(17へ、 32へ)して元の位置(原位)に戻った(解決)ものと解釈できます。

V和音の原理
 また、この進行が長い音符となった場合、間の5waonも独立した和音として知覚される事になります。 そうなると1waonの第5音である5を根音とした三和音と解釈できます。 よって5waonの各構成音高は以下のようになります。
5waonの構成音高
durの5waonmolの5waon
53/2×1/1=3/2702.0cent 53/2×1/1=3/2702.0cent
73/2×5/4=15/81088.3cent 7フラット3/2×6/5=9/51017.6cent
23/2×3/2×1/2=9/8203.9cent 23/2×3/2×1/2=9/8203.9cent
オクターブ内(1/1〜2/1、0〜1200cent)で表現

 尚、molの5waonにおいて第三音を上方変位して使用される例が多いのですが、 その場合はdurの5waonと同じになります。

用語解説
上方転位、下方転位:和音の構成音のいずれかが七音階の隣り合う位置に移動している事
上方変位、下方変位:和音の構成音のいずれかが増一度関係(半音)の位置に移動している事(音階上にない音の可能性もある)


4waon和音

 4waonはSとして機能する場合と、 27waonの根音省略形態としてD2の機能をになう場合があります。
 Sとして解釈する場合、5waonの解釈時と同様、 1waon4waon1waonの短い音符での進行は1音の保留の上で35音を上方転位して原位へ解決すると解釈できます。

IV和音の原理、S機能
 そして、この4waonが長く保続されると独立した和音として知覚されるため、 この和音は1waonの根音を第5音とした三和音として各構成音高を確定できます。

 一方、D2機能としての4waonはどのように解釈するべきか。
 本来の27waonの根音省略形態に戻して考えます。 5waon以外の属7は掛留和音(先行和音からの保続によって生じた転位音を含む和音)から発展したものであるため、 原理的には第7音(1)は先行する和音(T機能の1waon、 もしくは6waon)から保留された音という事になります。 そのため、この場合もS機能の場合と同じく1を第5音とした三和音として各構成音高を確定できます。(6waonの各構成音高については後述)

IV和音の原理、D2機能
4waonの構成音高
durの4waonmolの4waon
41/1×2/3×2=4/3498.0cent 41/1×2/3×2=4/3498.0cent
61/1×5/6×2=5/3884.4cent 6フラット1/1×4/5×2=8/5813.7cent
11/10.0cent 11/10.0cent

 ところで、ここまで解説した1waon4waon5waonの相対音高を並べ換えると長音階、 短音階が出来上がります。これが一般に純正音階、または純正律と呼ばれるものです。

相対音名12 34 56 7
周波数比率1/19/85/44/33/2 5/315/8
セント値0.0203.9386.3498.0702.0 884.41088.3
平均律との誤差0.0+3.9-13.7-2.0+2.0 -15.6-11.7
相対音名12 3フラット 45 6フラット 7フラット
周波数比率1/19/86/54/33/2 8/59/5
セント値0.0203.9315.6498.0702.0 813.71017.6
平均律との誤差0.0+3.9+15.6-2.0+2.0 +13.7+17.6

 ここで、この音階の旋律効果について検証してみましょう。
 ピタゴラス音律では9/8(203.9cent)のみであった全音(長二度)が、 従来通りの音程幅(9/8、203.9cent)の大全音と10/9(182.4cent)と狭い小全音の二種類になっており、 その二種類が音階の中で交互に組み合わさっています。
 一方、256/243(90.2cent)であった長音階(dur)の34(ミ−ファ)間と71(シ−ド)間の半音(短二度)が16/15(111.7cent)に広がっています。 また、長−短調の転旋(dur−mol)において登場する33フラット等の半音関係(増一度)は25/24(70.7cent)とかなり狭い音程幅となります。
 これら、ピタゴラス音律から外れた音程幅は必ずしも耳に心地よいものではありません。 そのため、特に旋律部に関してはしばしば旋律線を良好にするために修正を行う必要が生じます。
 基本的な考え方としては半音(短二度、増一度)を16/15(111.7cent)より広くしてはならないという事です。 半音はピタゴラス音律においては256/243(90.2cent)と小さな音程幅であり、狭い方が良好に聞こえます。 そのため、100centを越える音程幅は旋律的に心地よいものではないので、 長く保持された和音同士の交代時にしばしば現れる715waon1waon進行時)のような場合にのみ16/15(111.7cent)の音程幅が良好となります。
 この件の詳細についてはまた後日解説します。
6waon和音

 6waonは一般的にTと解釈され、 1waonに準ずる扱いを受けます。 (5waon6waon進行は5waon37waonの根音省略としてD4−D3進行と解釈されるものですが、 5waonのDとしての性質が非常に強いため、 その後に続く6waonもTと解釈されるようになった。)よって、 6waonに先行する和音としては主に1waon5waon3waonが、後続和音としては4waon2waon5waon等が考えられます。 中でも重要なのは1waon5waonが先行する場合です。 また、ゆれとしては1waon和音の第5音が上方転位したものと考えられます。
 以上を踏まえて解釈しましょう。 1waonからの進行時は第5音の上方転位と考えられるので、 1waonと共通する1を第3音とする三和音と解釈できます。
 一方、5waonが先行する場合、D−T進行のT機能と解釈されるため、 71の導音進行(短調の場合でも7を上方変位する例が多いので同様に考えられます)によって基本位置の1に到達すると解釈するのが適当でしょう。
 よって、主に以下のように解釈されます。またこのように解釈すると、前述の純正音階で表現できるので非常に都合が良いのです。

6waonの構成音高
durの6waonmolの6waon
61/1×5/6×2=5/3884.4cent 6フラット1/1×4/5×2=8/5813.7cent
11/10.0cent 11/10.0cent
31/1×5/4=5/4386.3cent 3フラット1/1×6/5=6/5315.6cent

 ところが、6waon和音がこのように1の純正三度関係と解釈される事がある矛盾を引き起こす事になるのです。その内容は次項。
2waon和音

 2waonはほぼ常にD2として機能します。 主な先行和音は1waon6waon4waon、 後続和音は5waonです。
 ここではひとまず長調のみ解釈します。短調では減三和音となり、純正和音を形成しないため、現段階では解釈不能です。 この和音は後の項で解説します。

 6waon4waonが先行する場合、 2waonと共通する46を保留するため、 根音である26の純正完全五度下、 4の短三度下と解釈できます。

durの2waonの構成音高 1
25/3×2/3=10/9182.4cent
41/1×2/3×2=4/3498.0cent
61/1×5/6×2=5/3884.4cent

 ところで、前述したように5waonの第5音の2は9/8、 203.9centで今回の2とは一致しません。 この理由はD進行の最長形を再掲して説明しましょう。
D進行:1waon4waon7waon3waon6waon2waon5waon1waon
T−D6−D5−D4−D3−D2−D1−T

 このように、D進行は七音階の五度下の和音へ進行していくので、長調の場合、 3waon(D4)以降は純正完全五度関係に進行していくのが本来の姿の筈です。 つまり、逆方向に考えていく(1waonからD1、 D2・・・と純正五度に上がって行く)と2waonの根音は9/8(203.9cent)、 6waonは27/16(905.9cent)、 3waonは81/64(407.8cent)となる訳です。
 ところが、減三和音である7waonがあるために各和音が実際にD6、D5、D4、D3の機能として使用される事はほとんどなく、 一般に6waonはTとして(3waonはT、 D両方に解釈される)機能するために、 1waonからの進行の都合等もあり、 6waon3waon1waonと純正三度関係と解釈される事になります。 このため、6waon4waonから進行した場合、 1waonと純正五度関係にある5waonとの間には矛盾を生じる事になります。
 古典和声学ではこの矛盾を認識していた模様で、 2waon5waon進行時には2を保留せずに近い音(7)に下降させるように指導されています(下例1)。 また、第一転回形(最下声パートが第3音)の場合、 上三声に第3音を含む根音高位配置を最適としているのも2を同一パートに保留させないための配慮と考えられます(下例2)。

例1
II和音の原理、VI−II進行
T11 12 71
1/1×21/1×210/9×215/81/1×2
0.0+12000.0+1200182.4+12001088.30.0+1200
T25 66 55
3/25/35/33/23/2
702.0884.4884.4702.0702.0
B13 34 23
5/45/44/39/85/4
386.3386.3498.0203.9386.3
B21 62 51
1/15/3×1/210/93/2×1/21/1
0.0884.4-1200182.4702.0-12000.0

例2
II和音の原理、IV−II1転回進行
T11 12 71
1/1×21/1×210/9×215/81/1×2
0.0+12000.0+1200182.4+12001088.30.0+1200
T25 66 55
3/25/35/33/23/2
702.0884.4884.4702.0702.0
B13 44 23
5/44/34/39/85/4
386.3498.0498.0203.9386.3
B21 44 51
1/14/3×1/24/3×1/23/2×1/21/1
0.0498.0-1200498.0-1200702.0-12000.0

 4waon7waon3waon、 D6−D5−D4の間においても同様の矛盾が発生しているのですが、 この場合は減三和音を挟むために、根音進行が完全五度でない事、 また減三和音の各構成音高が不確定である事から問題は特に発生しません。(そもそもこれらの進行は使用頻度が低い)

 ところで、前述した本来の2waonの姿である、 5の純正完全五度上の2を根音とする和音を使用する事はできないのでしょうか。 これが使えると、2waon5waon進行において、 25の根音進行が純正完全五度(四度)になるし、 2を保留する事も可能となる。 以上のような利点があるので、こちらの方がD2機能としては自然でしょう。
 前掲の2waonは先行和音から共通音を保留するためにこうした結果となりました。 それでは先行和音と共通音がない場合はどうでしょう。 その例としては1waonが先行する場合があります。 この場合は本来の2waonが使用できます(下例3)。

例3
II和音の原理、I−II進行
T13 22 3
5/4×29/8×29/8×25/4×2
386.3+1200203.9+1200203.9+1200386.3+1200
T21 67 1
1/1×227/1615/81/1×2
0.0+1200905.91088.30.0+1200
B15 45 5
3/227/203/23/2
702.0519.6702.0702.0
B21 25 1
1/19/83/2×1/21/1
0.0203.9702.0-12000.0

 無論、2waon5waon進行で2を保留しない進行をとれば前述した各構成音高と解釈する事も可能です。

durの2waonの構成音高 2
23/2×3/2×1/2=9/8203.9cent
49/8×6/5=27/20519.6cent
69/8×3/2=27/16905.9cent

 以上のように2waonの各構成音高を複数解釈できるのは、 調の基礎となる1waonと共通音を持たない事に原因があります。 そのため、直接は音高を確定できず、先行和音、後続和音から共通音を保留する事等によって解釈しているのです。 この事は2waonと同様、 1waonと共通音を持たない7waonについても同じ問題を孕んでいると言えます。
 2waonの各構成音高の解釈は結論として、 同一調性内では先行和音と共通音がある場合は2を低くし、 共通音がない場合は46を高くすると解釈します。
3waon和音

 3waonは常用範囲ではD、T、2つの機能を持ちます。
 本来のD4機能としては6waonへすすみますが、 その6waonが一般にTとして解釈されるため、 それへ進む3waonは、その影響でDと解釈される事になります。
 また一方、7waonからすすむ(D5機能)3waon7waon57waonの根音省略(D機能)として解釈される場合がほとんどのため、 この場合、後に続く3waon17waonの根音省略形態と解釈され、T機能を担います。
 他にも、5waonの第5音上方転位形態としてD機能を担う(主に1waonへ進む)事もあります。

 まず、17waonの根音省略形態としては1waonの第3音3を根音とする三和音と解釈できます。 6waonへ進行する場合は3が共通するので、同じく3を根音とする三和音となります。
 5waonの第5音上方転位形態の場合は本来5waon和音という事で、 5を第3音とする三和音と解釈できます。これは前述の解釈と同一の構成音です。
 基本的に3waonの構成各音高は以下のように解釈されます。

III和音の原理、III−IV進行
III和音の原理、III−VI進行
3waonの構成音高
durの3waonmolの3waon
35/4386.3cent 3フラット6/5315.6cent
55/4×6/5=3/2702.0cent 56/5×5/4=3/2702.0cent
75/4×3/2=15/81088.3cent 7フラット6/5×3/2=9/51017.6cent


7waon和音

 7waonは本来のD5機能として3waonへ進行する場合の他、 57waonの根音省略形態として機能する場合があります(通常範囲ではどちらもDと解釈される)。

 長調の場合は減三和音となるため後述します。また、短調の場合、 57waonの根音省略形態では7が上方変位される事が多いため、 これも同様に減三和音となるので後の項で解説します。 よって、現段階では短調において3waonに進行する7waonのみ解説します。
 この場合は7の音が共通しているので、この音を根音とする三和音と解釈できます。

molの7waonの構成音高
7フラット9/51017.6cent
29/5×5/4×1/2=9/8203.9cent
49/5×3/2×1/2=27/20519.6cent

 ここでも4の音が4waonの根音の場合と一致しません。 これは2waon和音の項で解説したのと同じ矛盾が発生しているためです。 という事はもう一つの7waonの解釈も成り立つ筈ですが、 ほとんど使用される事がないため、ここでは割愛します。(後の項で解説予定)
旋律と和音の整合

 前項までで三和音の処理法を解説しました。そこで本項ではそれを踏まえて実際の楽曲における処理について解説していきます。先に述べているように、旋律と和音では好まれる音律が異なる(和音は純正律、旋律はピタゴラス律、ただし後者は多少不確定)ため、実際の楽曲上ではそれらが相反することになり、いかにしてそれらを処理するかを求められます。

 この処理の基本的な考え方は以下の通りです。
・音程保持時間が短く、次々と音程が変化する場合(短い音符の連続、もしくはテンポが速い箇所)は和音よりも旋律が良く聞こえてくるため、その旋律が良好に聞こえる音律(ピタゴラス律)を用いる。
・音程保持時間が長く、一定時間一つの和音が発音される場合(長い音符が続く、もしくはテンポが遅い箇所)は和音が良く聞こえてくるため、和音が良好に聞こえる音律(純正律)を用いる。

 以下に具体例を挙げます。(自作曲の一部)
 この曲は男声四部でT1パートが常に主旋律を担当しており、下三声は和声を形作っているので下三声は全て純正律で構成します。主旋律のT1パートの処理が問題となります。

 尚、参考として純正和音を楽曲に使用する他の方法について一例を後に挙げておきます

合唱譜
構成各音高B2B1T2T1
音名
比率3/23/23/23/2
セント値702.0702.0702.0702.0
1和音音名
比率15/43/21×2
セント値0.0386.3702.00.0+1200
音名
比率4/39/8×2
セント値498.0203.9+1200
音名
比率13/21×281/64×2
セント値0.0702.00.0+1200407.8+1200
5セブンス和音音名
比率15/8×1/29/8×24/3×2
セント値1088.3-1200203.9+1200498.0+1200
1和音音名
比率13/21×25/4×2
セント値0.0702.00.0+1200386.3+1200
音名
比率15/43/21×2
セント値0.0386.3702.00.0+1200
音名
比率15/43/21×2
セント値0.0386.3702.00.0+1200
4和音音名
比率4/3×1/24/35/34/3×2
セント値498.0-1200498.0884.4498.0+1200
音名
比率81/64×2
セント値407.8+1200
音名
比率4/3×1/24/35/39/8×2
セント値498.0-1200498.0884.4203.9+1200
音名
比率1×2
セント値0.0+1200
5和音音名
比率3/2×1/29/83/215/8
セント値702.0-1200203.9702.01088.3
音名
比率127/16
セント値0.0905.9
音名
比率3/2×1/215/83/23/2
セント値702.0-12001088.3-1200702.0702.0
音名
比率3/23/23/23/2
セント値702.0702.0702.0702.0
C=1/1、0.0centとして表記

解説
1の箇所
 最初のCで和音を決めた後は短い音符が続くので、旋律が聞こえるピタゴラス律を用いる。
2の箇所
 4声とも長い音符で音程保持されるので和音が聞こえるため、純正律を用いる。
3の箇所
 4和音和音の上で短い音符の動き。ここは旋律を強調する。2の音を発音する箇所では不協和な響きがするが瞬間的なため、和音としては余り聞こえてこないので問題にはならない。むしろ後に続く1音で協和するため解決の快感を演出する事にもなる。(後の項で解説予定)
4の箇所
 最初の7音で和音を決めた後、短い音符が続くので旋律を強調する。このような純正三度と根音間のように純正三度を長二度2つで分割する場合、低い方に広い長二度(大全音)を持ってきた方が旋律的に良好に聞こえます。

低い <=9/8
203.9
10/9
182.4
=> 高い

その他の注意点
 短二度は16/15、111.7centより広くなると気持ち悪くなるので常に避ける。そのため、短三度を長二度、短二度で分割する場合、長二度には必ず9/8、203.9centを用いる。

 また、以上の事から、和声学において三和音の第三音重複が好ましくないとされる理由も推察される。
 ピタゴラス律と純正律の音階を比べた場合、音程が異なるのはそれぞれ主要三和音の第三音である367である。(下表参照)

1234567
長調音名
ピタゴラス律1/1
0.0
9/8
203.9
81/64
407.8
4/3
498.0
3/2
702.0
27/16
905.9
243/128
1109.8
純正律1/1
0.0
9/8
203.9
5/4
386.3
4/3
498.0
3/2
702.0
5/3
884.4
15/8
1088.3
短調音名フラットフラット
ピタゴラス律1/1
0.0
9/8
203.9
32/27
294.1
4/3
498.0
3/2
702.0
128/81
792.2
16/9
996.1
純正律1/1
0.0
9/8
203.9
6/5
315.6
4/3
498.0
3/2
702.0
8/5
813.7
9/5
1017.6
C=1/1、0.0cent として表記

 そのため、主要三和音発音時に旋律パートと和声パートの両方に第三音が同時発音されると、微差のある旋律的第三音と和声的第三音がぶつかって不快な音を生じるので、それを避けるためである。一方、根音や第五音の場合は誤差が少ないため許容される。
 また、6和音2和音において第三音重複を許容される例が存在する理由は、ピタゴラス律と純正律で誤差のない(旋律と和音で誤差が少ない)、145の音は音程の安定性が高く、これらを第三音とするためであると考えられる。


純正和音実現の一例

 純正和音を楽曲に応用するに当たって最も単純な方法は、平均律でとった主旋律の音程に対して純正にとった音程で和音を構成する事です。 つまり、下図のように主旋律の要所要所で和音を出す際に、その箇所の主旋律の音に対する純正な音を取って和音を構成するのです。

平均純正律的音高処理
和音箇所
構成各音高
比率5/12×45/3211/127/12×5/4
セント値1090.21100.01086.3
比率5/12×5/4
セント値886.3
比率1×3/24/12×6/55/12×9/8-1/12×8/57/12
セント値702.0715.6703.9713.7700.0
比率5/125/12
セント値500.0500.0
比率1×5/44/12
セント値386.3400.0
比率5/12×27/32-1/12×6/57/12×3/4
セント値205.8215.6201.9
比率14/12×4/55/12×3/4
セント値0.013.71.9
C=1/1、0.0centとして表記

 これは平均純正律という手法(「正しい音階」より)の応用ですが、 この場合上の表で各和音構成音の正確な音高を表記しましたが、同じ音名でありながら違う音高になる箇所があるので、 合唱、弦楽四重奏等、伴奏部のパートも独自に演奏される形態の場合はそれらのパートが微小な音程差を伴った旋律を演奏する事になるため、 かなり違和感のある演奏になる可能性があります。しかし、ギターのように和音を演奏する事が多く、 平均律によるフレットを持つ楽器には有効な方法と言えるでしょう。
コラム
純正律の見地から見た和声学の補筆

 これまで本文の解説の中で何度か和声学の記述や実習における原則的な公理の意味について書いてきましたが、これらは純正律を研究している内に気づいた事です。ここでは本文中で語れそうにない話をします。

 各声部の進行の規則の中で平行進行(2声部が共に下行、もしくは共に上行、というように同じ方向へ進行する)よりも斜行(片方が保留している間にもう一方が移行する)や反行(お互いに反対方向に移行する)を推奨されるのはなぜか?(和声学よりはむしろ対位法に近い話か)
 これは多声音楽全盛の頃の音楽の事情に起因する。

 まずは連続五度の響きの特異性が挙げられる。純正五度でなければ感じる事はできないが、これはかなり気持ち悪い音である。ある曲の演奏中に偶然遭遇したのだが、演奏中は気持ち良かったが、録音を聞くと内臓を上下に揺さぶられるような不快感を抱いた。この響きが当時の音楽のそれと相容れなかった事が一つの原因であろう。現在ではその特異な響きも表現の一つとして使用可能であろう。
 パレストリーナ等、この時代の人気曲を見ればゆったりしたテンポや三和音を多用している事が分かる。このような曲では、三和音が純正でハモると旋律はその中に埋没して聞こえにくくなってしまうのである(しかも演奏するのは教会等残響の多い場所!)。そのような中で平行進行をしたのでは複数声部が溶け合いすぎてそれぞれの旋律が聞こえなくなり、各声部の旋律の絡み合いという多声音楽のもう一つの要素が消えてしまう。そのため、声部の独立を保つためにこうした進行が奨励されたのである。
 しかし、時代が下り(初期多声楽の頃の平行オルガヌムにも言えるが)一つの旋律とそれの色づけのための和声という形が主流になると特に内声部(和声部)においては上記のような配慮は不要となっていった。


協和と不協和の対比

 ここからは不協和音の音程解釈を行っていきます。私自身にとって不協和音の響きの解釈は厄介なものでした。当初は隣り合う2音間を純正な比率にするものと解釈していたのですが、それでは特に57waon和音において第三音と第七音間に25:36、631.3centという音程関係が現れ、これがかなり強烈な唸りを生じて不快な響きになってしまうのでどうしたものかと途方にくれてしまいました。
 一方、不協和音(ここでは三和音以外の事)のなかでも奇妙に充実した響きを生じる和音があるのがさらに悩まされました。しかし、それらは以下のように構成各音の2音間が全て単純な比率(15:16以下)で表現できる和音である事が分かりました。

1majer7和音周波数比率
8:10:12:15
1miner7和音周波数比率
10:12:15:18
1majer6和音周波数比率
12:15:18:20
1sus4和音周波数比率
6:8:9
1plus9和音周波数比率
4:5:6:9
 これ以外の雲のようなぼんやりとした響きを生じる不協和音をどう解釈すべきなのか、以下、実験を通して考えて行きます。
57waon和音
実験編
c7sコード g7sコード
 上記の範疇に入らない代表的な和音が左図の配置。ようするに57waonの事(右図)です。上で述べたようにこの和音を隣り合う2音間を純正な比率にすると第三音と第七音間の減五度音程が25:36、631.3centとなるのですが、これをHD-81で再現してみると大変不快な音を生じさせてしまいます。これならば平均律の方がましなほどに。そうなるとこの和音は隣り合う二音のみを考えるのではなく、四音全体での響きを考える必要があるようです。尚、この和音を自然四和音(4:5:6:7)と解釈する方法については後の項で解説します。

 この事を考えた時、「では作曲者はどのようにイメージしていたのだろう?」という事に思い当たりました。 作曲者が楽譜を書いた時には当然なんらかの和音のイメージがあった筈ですし、 それを探ればこの和音のあるべき姿が見えて来るのではないかと考えたのです。
 それを考えた時、雑感反響感謝の項でT.T氏から御教授頂いたテーマが参考になります。 属七和音は三度を重ねた和音であり、最初の音律であるピタゴラス音律が五度、オクターブによって構成されている事を考えると違和感があります。 ところが、「音の後進国日本」(玉木宏樹著 文化創作出版)の中に「パレストリーナの頃にソシレファの和音が登場した。」という意味の記述があり、 その当時ミーントーン(中全音律)が普及してきていた事と奇妙な符合を感じます。 つまり、ミーントーンによる鍵盤楽器によってこの和音が成立したのではないかと考えられるのです。 一方、「絶対音感」(最相葉月著 小学館)を読んでいると各所で絶対音感によって和音をイメージしているらしい事が感じられ、 その大元の音が平均律調律楽器によるものである事は自明。 となれば、そうした絶対音感を持つ作曲家が書いた和音は平均律によるイメージであると考えるのが自然でしょう。
 あくまで推論ですが、こうした不協和音は書いた作曲家の時代の音律によってイメージされており、 その音律の響きから「あるべき響き」が導き出されそうです。

g7-c進行
 そこで各音律による響きの差異を比べてみました。HD-81で上記の進行を平均律、ミーントーン、 ヴェルクマイスターについては調によって違いがあるので数種の調で行いました。また自説の純正律も加える。 問題となる減五度音程間のセント値は以下の通り。

平均律ミーントーンヴェルクマイスター自説の純正律
600620.6611.7〜588.3631.3
ちなみにキルンベルガーやヤングでも
似たような数値になります

 行ってみると、問題の和音そのものの響きは純正律以外はほとんど同じように感じました。これはかなり意外でした。 むしろ印象的だったのは、ミーントーンや純正律の場合、この和音の独特の響きと後に続く協和音の響きの美しさの対比が明確になった点。 下二声のみで動かしてみるとその効果がより強調されます。純正律メーリングリストでもこういった属七和音に関する話題があり、 「ミーントーンによる鍵盤楽器で演奏されるとこうした不協和・協和の響きの差が明確になり、 協和音への解決という効果が良く解る。」という内容の投稿があり、今回の実験でその意味が実感できました。

 以後、いくつかの不協和音について実験してみましたが、和音の響きそのものはどの音律でも差異はほぼ感じられなかったので、細かく音程にこだわる必要はないと感じました。ただ、25:36、631.3centの響きは不快なのでその比率を避ける事を考えればよいでしょう。

理論編
 上記実験を踏まえて改めて和声学の解釈を試みましょう。
 上で問題にしていた57waonの原理について「総合和声 実技・分析・原理」(音楽之友社)に記述があります。この第7音は5waonの根音が下方転位した音であるとの事。

V7和音の原理
 という事は、属七和音はそもそも和声的都合よりも旋律的な目的で成立しており、構成音の一つが意図的に音を移す事によっていわば和音に負荷をかけ、その後に続く和音で純正三和音に進行する事によって解決の快感を高める事ができるのである。この例に限らず、和声学においては不協和音は原理的にいずれも三和音の構成音の内一つ、もしくは複数の音が隣接音度に転位もしくは変位した和音であるとされている。そのため、構造上協和音と認められるのは三和音のみであり、それ以外は全て不協和音と認識されていると言える。無論、実際の楽曲上では上で挙げたような和音の協和を念頭に置いているものもある(自然四和音もしかり)ので、それらはケースバイケースで解釈するべきである。

 一方、古典和声においてこのような転位音を含む和音はなんらかの形で解決を必要とするが、それは三和音へ解決する事によって不協和音の不安定さと後に続く三和音の充実した響きとを対比させる事によって三和音の響きの美しさ、安定の喜びを強調する事ができるのである。ただし、これは三和音を純正協和する事が大前提であり、そうした音楽の時代に成立した和声法のためである。純正協和音を聞く機会のない近年に作曲された作品ではこうした協和音への解決という概念はおそらくないであろうから不協和音に関する考え方も異にする必要があるだろう。
 このような協和と不協和の対比が上手く表現された演奏としては2002年に聞いたRenner Ensemble Regensburg(ドイツの男声合唱団)や2000年に聞いたアクースティックス(バーバーショップグループ)の演奏が挙げられる。

 以上を踏まえると属七和音の響きの上では音程を確定する事はできないし、必要もないが、演奏上の便宜的に旋律面から考察を加えると、25:36、631.3centの響きを避け、43の短二度進行の音程幅を広げすぎないために第7音の4の音高は純正音階上と同一で1の完全四度関係(4/3、498.0cent)とするのが適切でしょう。
 また、このように解釈すると、以下のような進行の場合、4を同一音高で保留できるので演奏上都合がよくなります(B1パート)。

V7−I進行の一例
T17 1
15/81/1×2
1088.30.0+1200
T25 5
3/23/2
702.0702.0
B14 43
4/34/35/4
498.0498.0386.3
B2 51
3/2×1/21/1
702.0-12000.0
 上のサンプル譜におけるB1パートは57waonの第7音(根音の下方転位音)であり、それが次の1和音において3に解決するのだが、その解決進行を延引する事によって解決の快感をより高めるのだが、その延引によって生じる(145)という和音も純正協和可能なのでそうしたい所。その時、57waonの第7音を従来の4(4/3、498.0cent)としておくと、同一音程で保留する事によって到達できます。
57waonの構成音高(durとmolの第3音上方変位の場合) 便宜上
53/2×1/1=3/2702.0cent
73/2×5/4=15/81088.3cent
23/2×3/2×1/2=9/8203.9cent
43/2×16/9×1/2=4/3498.0cent
オクターブ内(1/1〜2/1、0〜1200cent)で表現

短調の2waon和音

 それでは以前の項で保留していた減三和音の解釈を行いましょう。前項で解説したように不協和音の響きには音程を確定できる一点というものがないので、便宜上、決定的な問題となる25:36、631.3centの響きを避けつつ、前後の関係と旋律の都合を考慮して解釈するのが適当です。
 短調の2waonにおいては長調のように低い2(10/9、182.4cent)を使うと6フラット(8/5、813.7cent)との間に問題の25:36、631.3centの響きを生じてしまうので不適当です。
 むしろ、他の和音との展開時に同一音高で保留可能となり、色々と都合が良いので通常の2(9/8、203.9cent)を使う方が良いでしょう。

molの2waonの構成音高 便宜上
23/2×3/2×1/2=9/8203.9cent
41/1×2/3×2=4/3498.0cent
6フラット1/1×5/6×2=5/3813.7cent

長調の7waon和音

 続いて長調における7waonや短調の和声的(第3音上方変位)57waonの根音省略形体の解釈です。
 この場合は57waonの項での解説と同様、第3音と第7音(74)を25:36、631.3centの響きを生じないように、かつ他の和音との保留の都合を考慮して57waonと同様の構成音高と解釈するのが適当でしょう。

durの7waonの構成音高 便宜上
73/2×5/4=15/81088.3cent
23/2×3/2×1/2=9/8203.9cent
43/2×16/9×1/2=4/3498.0cent
オクターブ内(1/1〜2/1、0〜1200cent)で表現

非和声音の一般的な解釈法

 前項を踏まえて、非和声音の一般的な解釈法を解説します。
 協和する和音から構成音の一部が旋律効果のため一時的に転位、修飾、変位した後、その結果生じる不協和音が起こす緊張の緩和のために再び協和音に解決する事になる。
 それを踏まえると転位部には協和を考慮する必要はなく、むしろ旋律効果を優先してピタゴラス律の全音(9/8、203.9cent)、半音(256/243、90.2cent)で音階を構成するのが適当となる。まとめると、旋律処理としては以下のようになる。

協和部転位部協和部
純正和音ピタゴラス律による旋律純正和音

 ここで問題となるのは協和部と転位部の良好な接続法です。以降、これについて代表的な転位をいくつか例を挙げて解説していきます。尚、転位、修飾等に関する解釈については省略します。「和声 理論と実習」3、「総合和声 実技・分析・原理」(いずれも音楽之友社)をご参照下さい。
転位音

一部構成音を和音交代点の前後にずらす転位(先取音、掛留音)

例1
先取音を含む展開
T1 23 3
9/8×25/4×25/4×2
203.9+1200386.3+1200386.3+1200
T2 77 1
15/815/81/1×2
1088.31088.30.0+1200
B1 55 5
3/23/23/2
702.0702.0702.0
B2 55 1
15/8×1/215/8×1/21/1
702.0-1200702.0-12000.0

例2
掛留音を含む展開
T1 22 1
9/8×29/8×21/1×2
203.9+1200203.9+12000.0+1200
T2 55 5
3/23/23/2
702.0702.0702.0
B1 53 3
3/25/45/4
702.0386.3386.3
B2 71 1
15/8×1/215/8×1/21/1
1088.3-12001088.3-12000.0

 例1は後の和音の構成音を先取りしたもの、例2は先の和音の構成音を後続和音まで保留したもの。いずれの転位音も前後の協和音の構成音と保留されているためそれらと同一と解釈されます。
協和音の原位間を順次進行するための転位音(経過音)

例3
経過音を含む展開1
56 7
3/227/1615/8
702.0905.91088.3
B1 3 32
5/45/49/8
386.3386.3203.9
B2 1 15
1/11/13/2×1/2
0.00.0702.0-1200

例4
経過音を含む展開2
T1 67 1
5/315/81/1×2
884.41088.30.0+1200
T2 44 5
4/34/33/2
498.0498.0702.0
B1 44 3
4/34/35/4
498.0498.0386.3
B2 44 1
4/34/31/1
498.0498.00.0

 例3、4とも純正協和している和音同士の間を順次進行しており、例3は純正長三度(5/4、386.3cent)、例4は純正短三度(6/5、315.6cent)の間をいかに分割するかという問題。長三度の場合は広い長二度(9/8、203.9cent)と狭い長二度(10/9、182.4cent)に分割するのですが、旋律的には上行、下行に関わらず低い方に広い長二度が来た方が良好に聞こえます。短三度の場合は長二度と短二度の音程幅の差をできるだけ大きく取らなければ良好には聞こえないため、常に広い長二度を使用する事になります。57waonにおける543の進行もこれと同様の配慮に基づいています。
協和音の原位間を順次進行するための転位音(経過音) その2

 次いで2和音を含む和声展開における経過音の旋律解釈法を解説します。

例5
経過音を含む展開3
T1 12 17
1/1×210/9×210/9×2×8/915/8
0.0+1200182.4+12001178.51088.3
T2 66 5
5/35/33/2
884.4884.4702.0
B1 44 2
4/34/39/8
498.0498.0203.9
B2 42 5
4/310/93/2×1/2
498.0182.4702.0-1200

 ここでの問題は長調の2和音を使用するので低くなる2を含む2低−17の進行の処理をどうするかという事。ここの短三度は294.1centと純正(315.6cent)よりかなり狭いため、1を通常の0centとするとそれぞれの音程幅は182.4cent、111.7centとなり、長二度、短二度の広さの差が余りないので旋律の聞こえ方は不自然となります。そのため、1を通常より低く、2低より203.9cent低くとる事により音程幅を203.9cent、90.2centとして旋律を良好にする必要があります。

例6
経過音を含む展開4
T1 43フラット 22
4/3×24/3×8/9×29/8×29/8×2
498.0+1200294.1+1200203.9+1200203.9+1200
T2 12 7
1/1×29/8×215/8
0.0+1200203.9+12001088.3
B1 6フラット6フラット 5
8/58/53/2
813.7813.7702.0
B2 44 5
4/34/33/2
498.0498.0702.0

 こちらは短調の2和音を使用する事によって生じる42間の狭い短三度(294.1cent)の処理法。こちらも43間の長二度を203.9centとする事によって旋律を良好にする事ができます。もっとも、短調の2和音は協和しないため、実際の演奏上では2の音は2低(182.4cent)まで下がらなければ音響上の不都合は生じない事も付記しておきます。
転位時と逆方向に三度移動して解決する転位音(過復元進行)

 これは下に示すように転位した方向と逆に三度跳躍して解決するパターン。

例7
過復元進行を含む進行
T1 12 3フラット1
1/1×29/8×29/8×2×256/2431/1×2
0.0+1200203.9+1200294.1+12000.0+1200
T2 17 1
1/1×215/81/1×2
0.0+12001088.30.0+1200
B1 6フラット5 3フラット
8/53/26/5
813.7702.0315.6
B2 45 1
4/3×1/23/2×1/21/1
498.0-1200702.0-12000.0

 この場合はピタゴラス律の音程幅だけ転位してそれを加えた分戻ると考えればよいでしょう。
2個の転位音を連続して用いる例(連続転位)

 今回は複数の転位音が展開する場合の旋律解釈法を解説します。

例8
連続転位を含む展開
T1 54 23
3/2×24/3×29/8×25/4×2
702.0+1200498.0+1200203.9+1200386.3+1200
T2 71
15/81/1×2
1088.30.0+1200
B1 55
3/23/2
702.0702.0
B2 51
3/2×1/21/1
702.0-12000.0

 ここではTopにおいて5和音5から1和音3へ展開する上で4を経過し、さらにその解決を延引するために一旦2へ展開しています。
 この場合は間の転位音をピタゴラス律で解釈(ここでは純正律と同一になるが)して3に解決する所で下三声に対して純正和音となるように5/4、386.3centになります。
転位音がさらに転位する例(2次転位)

 2次転位を含み、複数の転位を行う例です。調性と音域の都合で3声体で表現します。

例9
2次転位を含む進行
56 76 5
3/227/16243/12827/163/2
702.0905.91109.8905.9702.0
B1 32
5/49/8
386.3203.9
B2 17
1/115/8×1/2
0.01088.3-1200

 このように長く転位箇所が続く場合はピタゴラス律で解釈し、協和部で和声パートと協和するように解決すると解釈します。尚、それぞれの音程保持が長く、和声表現を目的としていると解釈できる場合は、それぞれ6を5/3、884.4cent、7を15/8、1088.3centと解釈する事も可能です。
変位音

 ここからは増一度進行等、半音進行で生じる変位音の解釈を行います。ただし、ここでは旋律進行の都合で生じる(転旋、転調によるものではない)例のみを扱い、転旋、転調を伴う(かつ一定の音程保持があって和声が聞こえる場合)ものは後の項で扱います。
 本稿では各調性の7音階を基準に考察しており、変位音は各調性の音階から外れた音と考えています。そのため、各音位の確定度は以下のように右へ行く程低くなると考えます。

主音(1)  属音(5)、下属音(4)  他の音位(2367)  変位音

 さて、こうした半音進行による変位音はその上下の音位のcent値における中間値と考えれば良さそうですが、事はそう単純ではありません。
 実は合唱においてこうした半音進行がある場合、それが上行の場合は長く続く程下がって行きます。また、下行の場合は上手い人程下がりきらず、初心者程下がり過ぎる傾向があります。これらは発声、発音による事もありますが、もう一つの要素として旋律進行においては、半音(短二度、増一度)を平均律より狭くとった方が美しく聞こえる事を認識しているという事が挙げられます。そのため、半音を聞こえよく(狭く)進行している内に平均律との差が徐々に大きくなっていくために上記のような傾向が出てくるのです。

 以上を踏まえ、また、変位音の意味を考えて解釈を行っていきます。

上行の場合

 旋律においては上行は労力を必要とし、下行は自然な動きとして捉えられているので、下行は上行に比べて多彩な進行が許容され、属7音等転位音の多くが下行限定進行するのはこのためです。そのため、上行における変位音というのは下の音の上行の労力を最小限にするために多く行われます。このため、上行における変位音には下の音を増一度高めた表記を用います。また、この事は後の音位(上の音)に対する導音の役割を持っているといえます。こうした場合、後の音位(上の音)との間の方が前の音位(下の音)との間よりも狭い方が旋律的に聞こえが良くなります。

下行の場合

 上記のように、下行は自然な動きなので変位音は単なる挿入音と解釈され、それに付される調号も当該調から最も近い調性からの音位を使用する事になります。この場合の解釈としては、後の音位(下の音)に到達するための音程幅は比較的自由に捉える事が可能です。むしろ前の音位(上の音)から離脱する場合に下がり過ぎると気持ち悪く感じられるようになります。そのため、この変位音は前の音位(上の音)との間の方が後の音位(下の音)との間よりも狭い方が旋律的に聞こえが良いと言えます。

具体的な数値解釈

 以上を踏まえると変位音を含む進行は上の音位との間の半音をより狭く解釈するのが適当という事になります。そこで、各音位間の大全音(203.9cent)、小全音(182.4cent)の音程幅を具体的にどのように分割するのが適当でしょうか。狭い方の半音はできるだけピタゴラス半音(256/243、90.2cent)に近い方が適切です。
 小全音の場合は上をピタゴラス半音の90.2centとすると下は92.2centとなるのでそのように解釈します。
 大全音の場合は上をピタゴラス半音の90.2centとすると下は113.7centとなります。しかし、半音が余り広くなり過ぎるのは旋律的に好ましくありません。純正律の長調における71間等の短二度、16/15、111.7centを限界と考えた方が良いでしょう。そのため、この場合は下を16/15、111.7cent、上を92.2centと解釈します。

 また、このように解釈すると以下のような進行の場合、半音進行中の協和度が高くなって良好となります。(旋律進行だけを考慮するならば1シャープと表記すべきですが、2フラットと表記されているのはより協和を意識しているとも解釈できる。)

例10
協和を意図する変位進行
12フラット2
1/1×216/15×29/8×2
0.0+1200111.7+1200203.9+1200
11
1/11/1
0.00.0

 以下に上行例、下行例を示します。

例11
上方変位を含む展開
T1 11シャープ 22シャープ3
1/1×216/15×29/8×21215/1024×25/4×2
0.0+1200111.7+1200203.9+1200296.1+1200386.3+1200
T2 671
5/315/81/1×2
884.41088.30.0+1200
B1 355
5/43/23/2
386.3702.0702.0
B2 651
5/3×1/23/2×1/21/1
884.4-1200702.0-12000.0

 Topの1シャープは協和可能なので、一定の音程保持があるならば、81/80 70.7centと解釈する事も可能ですが、ここでは協和を考えず、旋律効果を優先して解釈すると、1シャープ1より純正律短二度分(16/15、111.7cent)高い音程、2シャープ3からピタゴラス半音分(256/243、90.2cent)低い音程と考えられます。

例12
下方変位を含む展開
T1 66フラット 54シャープ43
5/3×2405/256×23/2×264/45×24/3×25/4×2
884.4+1200794.2+1200702.0+1200609.8+1200498.0+1200386.3+1200
T2 171
1/1×215/81/1×2
0.0+12001088.30.0+1200
B1 155
1/13/23/2
0.0702.0702.0
B2 451
4/3×1/23/2×1/21/1
498.0-1200702.0-12000.0

 ここでもTopの6フラットは協和可能なので、一定の音程保持があるならば、8/5 813.7centと解釈する事も可能ですが、今回は旋律効果を考慮して前(上)の音位からピタゴラス半音(256/243、90.2cent)分低い音程と考え、また4シャープ4より純正律短二度分(16/15、111.7cent)高い音程と解釈するのが適当です。

応用編

 さらに応用として短二度音階と変位音が両方含まれる半音進行の旋律解釈を挙げておきます。この場合、まず音階をピタゴラス音律に修正し、変位音は全て大全音(9/8、203.9cent)を分割するので低い音位より純正律短二度分(16/15、111.7cent)高い音程と解釈します。

例13
短二度音階と変位を含む展開
T1 17 7フラット6 6フラット55
1/1×2243/1289/527/168/53/23/2
0.0+12001109.81017.6905.9813.7702.0702.0
T2 543
3/24/35/4
702.0498.0386.3
B1 321
5/49/83/2
386.3203.90.0
B2 171
1/115/8×1/21/1
0.01088.3-12000.0

 上例では一定の音程保持がない間に短二度音階と変位音を含む半音進行が連続しています。この場合、まず各音階(主に76)をピタゴラス音律による音程に修正し、その上で変位音をそれぞれ下の音位より純正律短二度分(16/15、111.7cent)高い音程と解釈します。尚、このように解釈した場合、Topの6フラットとBarの2との減五度関係は609.8centとなり、59waon諸和音の項で解説したように、不快な 36/25 631.3centより狭くなるので良好となります。
代表的な不協和音の解釈法

 ここまでの転位音の解釈を踏まえて、そうした転位音を含む代表的な不協和音の便宜的な音高の解釈を行っていきます。

59waon諸和音

 すでに57waonの段階で純正協和を放棄し、妥協した音高をしている訳で、この上にどういった音程を載せればよいのでしょうか。また、自然五和音と解釈できる場合については後の項で解説します。

 まずは長調の59waon。原理的には57waonの根音が上方転位した和音である事を考えると、旋律進行を考慮して根音5から大全音(9/8 203.9cent)上行した音程(27/16 905.9cent)と解釈する方法があります。

V9和音の原理
 一方、この第9音が音階上は6であり、この音位を含む和音(4waon2waon等)が先行して、その和音から保留された場合、音階上の6(5/3 884.4cent)と解釈する方法もあります。

 これらの和音を実際にHD-81に入力して発音して見ると、和音の響きとしては余り差異を感じません。勿論、旋律進行上は前者の方が良好に聞こえますが。という訳でこの6音に5音が先行する場合は前者(27/16 905.9cent)、先行和音から保留される場合は後者(5/3 884.4cent)と解釈するものとします。

例1
V9和音を含むバス課題上行到達 長調
T13 45 65
5/4×24/3×23/2×227/16×23/2×2
386.3+1200498.0+1200702.0+1200905.9+1200702.0+1200
T21 17 1
1/1×21/1×215/81/1×2
0.0+12000.0+12001088.30.0+1200
B15 44 3
3/24/34/35/4
702.0498.0498.0386.3
B21 65 1
1/15/3×1/23/2×1/21/1
0.0884.4-1200702.0-12000.0

例2
V9和音を含むバス課題保留到達 長調
T1 33 43
5/4×25/4×24/3×25/4×2
386.3+1200386.3+1200498.0+1200386.3+1200
T2 11 21
1/1×21/1×29/8×21/1×2
0.0+12000.0+1200203.9+12000.0+1200
B1 56 65
3/25/35/33/2
702.0884.4884.4702.0
B2 11 71
1/11/115/8×1/21/1
0.00.01088.3-12000.0

長調の59waonの構成音高 便宜上
53/2×1/1=3/2702.0cent
73/2×5/4=15/81088.3cent
23/2×3/2×1/2=9/8203.9cent
43/2×16/9×1/2=4/3498.0cent
63/2×9/8=27/16 または
3/2×10/9=5/3
905.9cent または
884.4cent
オクターブ内(1/1〜2/1、0〜1200cent)で表現

 続いて短調における59waonやこれを長調で借用する59和音短調(特に根音省略形体ディミニッシュ7が好んで使用される)の解釈です。
 この場合は57waonの第3音と第7音(74)の関係と同様に第5音と第9音(26フラット)の間に25:36、631.3centの響きを生じないように音階上の6フラットと同じ(8/5 813.7cent)と解釈するのが適当となります。

例3
V9和音を含むバス課題保留到達 短調
T13 44 21
6/5×24/3×24/3×29/8×21/1×2
315.6+1200498.0+1200498.0+1200203.9+12000.0+1200
T21 12 71
1/1×21/1×29/8×215/81/1×2
0.0+12000.0+1200203.9+12001088.30.0+1200
B15 66 65
3/28/58/58/53/2
702.0813.7813.7813.7702.0
B21 42 43
1/14/39/84/36/5
0.0498.0203.9498.0315.6

短調の59waonの構成音高(第3音上方変位の場合) 便宜上
53/2×1/1=3/2702.0cent
73/2×5/4=15/81088.3cent
23/2×3/2×1/2=9/8203.9cent
43/2×16/9×1/2=4/3498.0cent
6フラット3/2×16/9×6/5×1/2=8/5813.7cent
オクターブ内(1/1〜2/1、0〜1200cent)で表現

 また、第三音を上方変位させず、固有の7を使用する場合は第7音までは純正協和するため7waon和音の項で解説したような音高となります。第9音は第5音と減5度関係となるので、この間を25:36、631.3centの関係にしないよう音階上の6と同一とするのが適当でしょう。

短調の59waonの構成音高(固有の第3音の場合) 便宜上
53/2×1/1=3/2702.0cent
73/2×6/5=9/51017.6cent
23/2×3/2×1/2=9/8203.9cent
43/2×6/5×3/2×1/2=27/20519.5cent
6フラット3/2×16/9×6/5×1/2=8/5813.7cent
オクターブ内(1/1〜2/1、0〜1200cent)で表現

Vの第5音上方変位諸和音Vの第5音下方変位諸和音諸和音

 変位音の解釈を受けて5の第5音上方変位諸和音5の第5音下方変位諸和音の構成各音の具体的音高を考察します。
 これらの和音の目的は和声協和よりも構成各音の指向性(どの音位に進行する目的を持つか)という旋律的な都合にあります。すなわち、5諸和音の第3音は導音として上行限定進行し、第7、第9音は下行限定進行としてそれぞれ指向性を持っていますが、第5音はそうした指向性を持っていない(そのため様々な進行が許容されるが)ので、人為的に増一度上げたり下げたりする事によって次にくる1和音31への指向性を持たせるのです。

Vの第5音上方変位和音の原理 Vの第5音下方変位和音の原理
 そのため、こうした和音の解釈は和声よりも旋律効果を優先して行うのが適切という事です。

上方変位例

例4−1
Vの第5音上方変位和音を含む展開
T1 12 2シャープ3
1/1×210/9×232/27×25/4×2
0.0+1200182.4+1200294.1+1200386.3+1200
T2 66 71
5/35/315/81/1×2
884.4884.41088.30.0+1200
B1 34 55
5/44/33/23/2
386.3498.0702.0702.0
B2 62 51
5/3×1/210/93/2×1/21/1
884.4-1200182.4702.0-12000.0

 この場合はVの第5音上方変位和音が協和しないので72シャープの協和を特に意識する必要性はありません。そのため、Topの進行は旋律を重視して、2シャープは下の2との間より上の3との間を狭くとるよう、2より純正律短二度分(16/15、111.7cent)高い音程と解釈します。ここの22低(10/9、182.4cent)なので3との間は大全音分(9/8、203.9cent)あるので上記の解釈となります。

 また、Vの第5音上方変位和音が協和しないという事は、より旋律効果を高めて712シャープ3の導音進行をいずれもピタゴラス半音(256/243、90.2cent)に近い音程幅に解釈する事も可能となります。上例では61間が広いので不可能ですが、下例のように本来の2和音を使用する等すると可能となります。

例4−2
Vの第5音上方変位和音を含む展開
T1 32 2シャープ3
5/4×29/8×21215/1024×25/4×2
386.3+1200203.9+1200296.1+1200386.3+1200
T2 16 71
1/1×227/16486/2561/1×2
0.0+1200905.91109.80.0+1200
B1 54 55
3/245/323/23/2
702.0519.6702.0702.0
B2 12 51
1/19/83/2×1/21/1
0.0203.9702.0-12000.0

下方変位例

例5
Vの第5音下方変位和音を含む展開
T1 32 2フラット1
5/4×210/9×2135/128×21/1×2
386.3+1200182.4+120092.2+12000.0+1200
T2 16 55
1/15/33/23/2
0.0884.4702.0702.0
B1 64 43
5/34/34/35/4
884.4498.0498.0386.3
B2 12 71
1/110/915/8×1/21/1
0.0182.41088.3-12000.0

 ここでもV7の第5音下方変位和音が協和しないので2フラット4の協和を意識する必要はありません。そのため、2フラットの音程は旋律の都合を考慮して上の2からピタゴラス半音(256/243、90.2cent)分低い音程と考えるのが適当です(21間が小全音のため)。

ダブルドミナント9(短調版)の第5音下方変位和音和音の解釈

 さて、Vの第5音下方変位諸和音和音を扱った以上、この和音を取り上げない訳にはいかないでしょう。本項の前身「純正律理論」内で扱って以降、解釈を休止していた和音です。以前は隣り合う音程を協和するように重ねていくと考えていたので意外な結論に達していました(それによって発見もありましたが)。その後、「続・純正律理論」で転調等の考察を経て、一定の結論に到達しました。

 この和音使用法は元の調の音階では構成できない和音を他の調の和音と解釈して使用する技法で、使用された他調の和音を借用和音といいます。主調の音階各音位を主音とする調を属調といい、それらに属する和音を主調内でカデンツの一要素として使用するというのが借用和音の解釈法ですが、これは多分に音楽学者が技法をまとめる上で作られたものらしく、作曲者の「自在な和音選択」という実践が先にあるために現実の使用中では具体的音高考察にもう一工夫必要になります。
 すなわち、借用和音を短い転調と解釈して、転調処理法を応用して主調と借用和音が属する調との関係から導き出す方法では、実際の解釈において色々と問題を生じる事があるのです。これらを解釈するためには前後関係から作曲者の意図を読み取り、根音の高さや進行に都合の良い構成各音高を考察する必要があります。
 ここでは、ダブルドミナント9(短調版)の第5音下方変位和音5調の和音と解釈して根音の位置から考察すると1の音高が一致しない等、色々な問題が生じます。この場合、ダブルドミナント9(短調版)の第5音下方変位和音が不協和音であるため、協和については余り考慮する必要はありません。また、この和音は構成各音全てが指向性を持っているため、旋律の都合を優先するのが適切です。

例6
ダブルドミナント9(短調版)の第5音下方変位和音を含む展開
T1 12 71
1/1×21/1×215/81/1×2
0.0+12000.0+12001088.30.0+1200
T2 66フラット 55
5/3405/256 (8/5)3/23/2
884.4794.2 (813.7)702.0702.0
B1 43フラット 23
4/332/27 (6/5)9/85/4
498.0294.1 (315.6)203.9386.3
B2 44シャープ 51
4/3×1/264/453/2×1/21/1
498.0-1200609.8-1200702.0-12000.0

 上例では先行する4和音1が同じ音高と解釈し、他の音程は旋律進行から考察を加えます。4シャープ6フラットは半音進行の解釈法から、3フラットは転位音の解釈法から導き出します。14シャープ間の音程幅が 36/25 631.3centより狭くなるのでまずまず良好と言えるでしょう。
 ただ、この和音は一部(6フラット13フラット)が協和可能なので、そうした解釈をする事も可能です。()の音程。
 この和音のように不協和音の音階構成音中、三つ以上の音において全ての2音間が純正協和可能な場合はそのように解釈する事も一つの選択肢となります。

 これら借用和音の解釈法については色々な例がありますので、別項にて詳細を解説する予定です。


コラム
音程不確定性の拡大

 不協和音の解説に入ってから和音の各構成音高が不確定性が高くなり、便宜上の音程という表記が多くなってきました。これは純正協和しない事が主な原因なのですが、実はこの後、転調の話になると協和音であってもそうした傾向が高まっていきます。これは転調等の音楽技法成立時の状況が関係しています。
 例えば短調の5waon和音の第3音7が音階上にない音程に上方変位するのは71進行を短二度上行(導音進行)にして到達感を出し、かつ5waonを長三和音化する事により後に続く1waonの短三和音との差を際立たせる事によって悲しみ等を演出しています。実は固有の5waonを使うと意外に明るいイメージになります。
 こういった音階にない音を使用するという事は人為的な演出によるもので、同様な技法としてダブルドミナント55waon2waonを長三和音化し、5への導音化するために4を上方変位したのが本来の目的でしょう。
 ようするに音楽の技法というものは作曲家の「こうしたい」という意志によって人為的に作り上げられた後に理論家によって追加承認(転調等の理論付け)されて来たという歴史をもっており、これらの技法は作曲家が鍵盤楽器の音程(何らかの12音律)を元に作り上げられた例が多いので、純正律で考察する時に色々と矛盾が生じる事になるのです。

 モーツァルトはミーントーン主義者であったため、あるミサ曲でオケ伴奏にも関わらず全曲が6つの調性の中に収まっているのを見た時は驚きを通り越して感心してしまいました。「モーツァルトの五度」と呼ばれる連続五度の許容例もミーントーンが影響している可能性があるでしょう(ミーントーンは完全五度が純正より狭いのでこの調律による鍵盤楽器では連続五度は実感できない)。
 後の項で解釈を放棄しているように全音音階はドビュッシーが平均律の転調に関する機能性を生かして作り上げたものです。

 特に借用和音(後に解説予定)に関してはそうした「作曲家の意志によって作り上げられた和音進行」が多く発生するため、純正律的にはより音程の不確定性が高まり、混迷の度合いを深めていきます。
転調時の音高解釈

 曲中で転調が行われるというのは純正律にとっては大変厄介な事です。各音間の音程幅が一定ではない純正律の場合、 転調が発生すると音階が変化するのでそれまでの音階とは違うものになってしまうのに加えて、 元の調との関係もあるので、互いの調の音程関係もそうそうでたらめにする訳にも行きません。 そこで、その転調関係を一つ一つ関連付けて行きます。
 転調の可能性については「総合和声(音楽之友社)」を参考にしています。

一、同主短調(長調)への転調、準固有和音
Cdur<=>Cmol等の相互転調

 まずは主音が同じ調同士の転調。固有和音とは一つの調の音階(7個)の各音を根音とした和音の事。 準固有和音というのは長調の曲中で一時的に同主短調の固有和音を使用する事があり、その同主短調の固有和音の事を言う。

 この場合、主音をはじめとする音階の一部(1245等)の音高が共通であるため、フラット、 ナチュラルがつく音階構成音を入れ替える事(6<=>6フラット、 等)で対応できます。

同主転調を含むバス課題によるサンプル譜
パートT1T2B1B2
1和音音名
比率1/1×23/25/41/1
セント値0.0+1200702.0386.30.0
6和音音名
比率1/1×25/35/45/3×1/2
セント値0.0+1200884.4386.3884.4-1200
準固有4和音 音名フラット
比率1/1×28/54/34/3×1/2
セント値0.0+1200813.7498.1498.1-1200
2フラット和音第1転回 音名フラットフラット
比率16/15×28/54/34/3×1/2
セント値111.7+1200813.7498.1498.1-1200
1和音第2転回音名
比率1/1×23/25/43/2×1/2
セント値0.0+1200702.0386.3702.0-1200
5和音音名
比率15/83/29/83/2×1/2
セント値1088.3702.0203.9702.0-1200
1和音音名
比率1/1×23/25/41/1
セント値0.0+1200702.0386.30.0
C=1/1、0.0centとして表記

二、隣り合う調への転調
Cdur<=>Gdur等の転調、 5調の5waon和音(ダブルドミナント)等

 ここからは主音が変更されるので、 移調した先の調が元の調に対してどういう関係になるのが適切かを考えて行く必要があります。 それを考えるには5調の5waon和音(ダブルドミナント)の処理法を考察する事が有効です。

ダブルドミナントを含むバス課題によるサンプル譜
 上記サンプル譜に表記したように、 557waon5waonの進行は5調においては57waon1waon進行であると言えます。 この事から5調の音階構成音は(1調音階上の)5音を主音とした音階と解釈すべきと考えます。
 そうなると、5調の各音階構成音の具体的音高は1調の各音階構成音の周波数比率に3/2を掛けたもの(オクターブ内で表現する都合から、 2を越えた数値は2で割った数値にします。)になります。

5調の音階(1調に対して)
長調1 22 34 56 7
3/25/327/1615/81/19/85/445/32
702.0884.4905.91088.30.0203.9382.3590.2
+2.0-15.6+5.9-11.70.0+3.9-13.7-9.8
短調1 2フラット 22 3フラット 45 6フラット 7フラット
3/28/55/327/169/51/19/86/527/20
702.0813.7884.4905.91017.60.0203.9315.6519.6
+2.0+13.7-15.6+5.9+17.60.0+3.9+15.6+19.6

 つまり、楽譜の557waon和音の構成音の音高は、 上表における長調の5724の音高と解釈する事になります。

パートT1T2B1B2
1和音 音名
比率5/4×21/1×23/21/1
セント値386.3+12000.0+1200702.00.0
4和音 音名
比率4/3×21/1×25/34/3×1/2
セント値498.1+12000.0+1200884.4498.1-1200
5調の5の7和音 音名シャープ
比率9/8×21/1×227/1645/32×1/2
セント値203.9+12000.0+1200905.9590.2-1200
5和音 音名
比率9/8×215/83/23/2×1/2
セント値203.9+12001088.3702.0702.0-1200
1和音 音名
比率5/4×21/1×23/21/1
セント値386.3+12000.0+1200702.00.0
C=1/1、0.0centとして表記

 尚、上表のB1パートは表記音(A)は同一ながら微少な音高の差異が生じています。 (1調の6音884.4cent、 5調の2音905.9cent)これはやむを得ません。 上例のような伴奏部ならともかく、主旋律ではこうした同名異音にならない方が旋律の聞こえ方が良好になります。

 以下、1曲中での5調への転調と復帰は上表の音階で表現可能となるでしょう。


三、平行調及びその同主短(長)調へ、もしくは同主短(長)調の平行調への転調
Cdur<=>Adur、mol、Cmol<=>Esdur、mol等の転調

 次は、見かけ上音階が同一になる平行調への移調の場合です。 これは調を相対的に見た場合、 1の長調に対する6の短調、 1の短調に対する3の長調という事になります。 まずは前者について考察してみましょう。
 前項を発展させて考えてみると、 6調は5調のさらに2つ上の調になるので、 各音階構成音の具体的音高は5調の各音階に9/8を掛けたものになります。

6調(短調)の音階(1調(長調)に対して)
6調1 23 45 67
27/16243/12881/809/881/6427/20243/160
905.91109.821.5203.9407.8519.6723.5
+5.9+9.8+21.5+3.9+7.8+19.6+23.5
1調 67 12 3 45
5/315/81/19/85/44/33/2
884.41088.30.0203.9386.3498.1702.0
-15.6-11.70.0+3.9-13.7-1.9+2.0

 この音階を1調のものと比べてみると(セント値で見ると解かりやすい)明らかに全体が微妙に高くなっている事が解かります。 これは調が上がるにつれて音階の一部が順番に高くシフトされていくためです。
 しかしこれでは転調した瞬間に音階が高くシフトされて、大変気持ちの悪い展開になってしまいます。 ではどうするか。 1調の6音を主音とする音階を構成すれば両方の間の共通音(音名)がほぼ同一になるため、 違和感なく転調が可能になります。 具体的音高は1調の各音階に5/3を掛けたものです。

6調(短調)の音階(修正)
6調1 23 45 67
5/315/81/110/95/44/33/2
884.41088.30.0182.4386.3498.1702.0
-15.6-11.70.0-17.6-13.7-1.9+2.0
1調 67 12 3 45
5/315/81/19/85/44/33/2
884.41088.30.0203.9386.3498.1702.0
-15.6-11.70.0+3.9-13.7-1.9+2.0

 尚、6調の4音と1調の2音が違う音になっておりますが、 これは純正音階においては14は完全五度(完全四度)関係に設定していますが、 26音は完全五度にはならない事に起因するものです。 これも1調で2waon和音を使用する際に2低の音(10/9、182.4cent)を使い、 これが6調の4音と同一なので問題はないでしょう。

 また、1の短調に対する3の長調の場合も同様の現象が発生し、 これも同様の方法で修正できます。 (3フラットの音を主音とする音階を構成すれば良い。)
 さらに、それら平行調の同主長(短)調に移調する場合を考慮すると、それぞれ6音、 3フラット音を主音とする長短両調の純正音階を用意する必要がある事が解ります。
 それらを踏まえると下表の音階になります。 尚、下表ではそれぞれの2低の音(6調の2低は50/27、1066.8cent、 3フラットの調の2低は4/3、 498.1)は省略していますがそれは五度毎の音階を両隣に配置していくと五度下の調に存在するのでここでは外しておきました。

6調
×5/3
3フラット 3 4 5 6フラット 6 7フラット 7 1 2フラット 2
1/125/2410/95/44/325/183/225/165/316/915/8
0.070.7182.4386.3498.1568.7702.0772.6884.4996.11088.3
0.0-29.3-17.6-13.7-1.9-31.3+2.0-27.4-15.6-3.9-11.7
1調 1 2フラット 2 3フラット 3 4 5 6フラット 6 7フラット 7
1/116/159/86/55/44/33/28/55/39/515/8
0.0111.7203.9315.6386.3498.1702.0813.7884.41017.61088.3
0.0+11.7+3.9+15.6-13.7-1.9+2.0+13.7-15.6+17.6-11.7
3フラット調
×6/5
6 7フラット 7 1 2フラット 2 3フラット 3 4 5 6フラット
1/127/259/86/532/2527/2036/253/28/59/548/25
0.0133.2203.9315.6427.4519.6631.3702.0813.71017.61129.3
0.0+33.2+3.9+15.6+27.4+19.6+31.3+2.0+13.7+17.6+29.3
1調の1=1/1、0.0centとして表記

自作による平行調転調例

転入部(上段)
パートT1T2B1B2
1調の1和音
1/1×23/25/41/1
0.0+1200702.0386.30.0
6調の5和音 シャープ
15/825/165/45/4
1088.3772.6386.3386.3
復帰部(下段)
パートT1T2B1B2
6調の5和音 シャープ
5/4×215/825/165/4
386.3+12001088.3772.6386.3
6調の1和音
1調の6和音
5/4×21/1×25/35/3×1/2
386.3+12000.0+1200884.4884.4-1200
1調の5和音
3/2×29/8×23/215/8×1/2
702.0+1200203.9+1200702.01088.3-1200
C=1/1、0.0centとして表記

 上記サンプル譜は自作の一部で、実際はその前後に8小節ずつCdurの旋律がありますが、 ここでは転入、復帰部だけを抜き出しています。(適当に作った割りには上手く転調、復帰していて驚きました(笑))
 上段の転入部で3の音(6調の5)が共通しており、 旋律の音階もほぼ共通であるためスムースに転調できます。
 また、下段の復帰部は6調の1和音和音を1調の6和音和音に読み替える事で滑らかに繋げていますが、 ここでも両和音の構成音が共通しているために違和感なく転調する事ができます。


四、転調技法別の処理法
特殊な転調法の解釈の方法

 転調には同一の和音を異名同音解釈により別の調の和音と考える事によって行われるものもあります。 それらは本来、異名同音の読み替えが可能な音律(ヴェルクマイスター、キルンベルガー、ヤング等のウェルテンペラメント、 もしくは平均律)を前提に作り出されたものであるため、純正律とは相容れないものとも言えますが、 可能な限り解釈してみましょう。

1、減五属七和音の読み替えによる転調

 減五属七和音とは、ギターで言う所のディミニッシュ7コード。 和声学的には短調における59nf和音、 もしくはこれを同主長調で借用した59nf借用和音という事になります。
 この和音は平均律で考えると、隣り合う構成各音間がいずれも半音3つとなるため、 構成各音それぞれを導音とみなした5つの調の和音(純正律では異名同音にはならないため)に置き換える事が可能になります。 また、ダブルドミナントの可能性559nf和音559nf借用和音も含めると下図のように10の調の和音に置き換えられます。

転調可能性

 これらをどのように解釈するか。 まず、CからEフラット、Aへの転調は平行調への転調ですので、 平行調の項で述べたような音高に移行する事になります。 それによって間の減五属七和音に関しても導音の具体的音高が確定します。 そして、他の三声の音高を考察する際注意すべき事は以下の2点です。

・進行において旋律が不自然にならないようにする
・減五属七和音に耐え難い響きを生じないようにする(いずれの2音間にも25:36(音程幅631.3cent)の音程関係を生じさせない)

 以上を考慮して下記転調進行における各パートの具体的音高を考えてみましょう。
 左のC−Eフラット転調において、 T1のFの音はEフラット調から考えると27/20(519.5cent)ともとれますが、 前のE音5/4(386.3cent)からの移動量133.2centは半音の音程幅としては広すぎて聞くにも演奏するにも不自然となるため、 前の調の音を使用しています。また、その影響でこの和音全体をC調の和音に統一した方が都合が良くなったので、 T2のH(Cフラット)もC調の15/8(1088.3cent)とします。
 結果として、この例においては異名同音となっておりますが、これは進行の都合を考慮したものであり、 先行和音(離脱和音)によってはF、 H(Cフラット)ともEフラット調の音程を使用した方が良い場合もあります。
 右のC−A転調の場合はA調の和音として考えて問題ありません。注目すべきはB2のD音。 これをC調の音9/8(203.9cent)とせず、 A調の音10/9(182.4cent)とする事によって後のCシャープへ自然な移行を達成しています。

C−Es転調 C−A転調
T1フラット
5/4×24/3×26/5×2
386.3+1200498.1+1200315.6+1200
T2H(Cフラット
1/1×215/89/5
0.0+12001088.31017.6
B1フラット
3/28/53/2
702.0813.7702.0
B2フラット
1/19/86/5
0.0203.9315.6
T1フラット(Gシャープ
3/2×225/16×25/3×2
702.0+1200772.7+1200884.4+1200
T2
1/1×215/85/3
0.0+12001088.3884.4
B1
5/44/35/4
386.3498.1386.3
B2シャープ
1/110/925/24
0.0182.470.7

 さて、一方Cに対するFシャープ、 Gフラット調(1調に対する4シャープ調、 5フラット調)はこれまでの解説に登場しておりません。 以下に展開してみましょう。
 この場合は減五属七和音の構成音の内、転調前、転調後の両方の調において同じ表記の音を共通音として前の調の音高で確定とします(異名同音は除く)。 Fシャープ調への場合はH、D、 Gフラット調への場合はF、Aフラット。 その上でそれらの音から転調後の主音をはじめとする音階構成音を導き出します。 以下は前述した進行上の注意に沿って各音の具体的音高を決めていきます。 下の例ではFシャープ調へは転調後の調の音、 Gフラット調へはは転調前の調の音と判断する事で問題なく進行しています。
 Gフラット調の場合はT2のD(Eフラットフラット)の音を転調後と判断すると256/225(223.3cent)となりますが、 そうすると先行するC音からの移動量が大きすぎるので転調前の和音とする方が適切と判断します。
C−Fis転調 C−Ges転調
T1フラット(Gシャープシャープ
3/2×2405/256×245/32×2
702.0+1200794.1+1200590.2+1200
T2シャープ
1/1×29/8×2135/128
0.0+1200203.9+120092.2+1200
B1F(Eシャープシャープ
5/4675/51245/32
386.3478.5590.2
B2シャープ
1/115/8225/128
0.01088.3-1200976.7-1200
T1フラットフラット
3/2×28/5×264/45×2
702.0+1200813.7+1200609.8+1200
T2D(Eフラットフラットフラット
1/1×29/816/15
0.0+1200203.9111.7
B1フラット
5/44/364/45
386.3498.1609.8
B2H(Cフラット
1/115/8×1/216/9×1/2
0.01088.3-1200996.1-1200

 また、ダブルドミナントへ読み替えした場合の例は特に紹介していませんが、 上例中の減五属七和音と解決和音をそれぞれ559nf借用和音5和音と考えれば転調後の音階も確定できます。

 ところで、Fシャープ、 Gフラット調の音階構成音確定法の根拠としては4シャープmolと1dur、 5フラットdurと1molの各音階の一部が同じ音名で同じ音高と判断できる点です。 まあ、はなはだ薄い根拠ではありますが・・・。
 ただ、左上の和音をダブルドミナントへ読み替えした場合、 減五属七和音と解決和音はそれぞれHdur(7調)の559nf借用和音5和音と判断できます。 そうなると主音H(1調の7音)は15/8(1088.3cent)となり、 これまで解説してきた内部調と一致します。このように他の調との関係を調整する上で都合が良いという事はできます。


2、属7を増5−6に転義する転調

転調可能性 属7=増5−6

 次は上記のように属7和音をダブルドミナント9根音省略形体の第5音下方変移和音に読み替える事による転調法です。 ちょっと解りにくいかもしれませんが、以下のような関係になっています。

Cdurの相対音絶対音Hdurの相対音絶対音
2同音 3フラット
7同音 1
5同音 6フラット
4異名同音 4シャープ シャープ

 これの解釈は前項と同様、 7調への転調という事で転調後の構成各音高は以前表記した通りです。 繋ぎの和音の具体的音高は前項の注意に従って考察していきます。

転調例1

T1シャープシャープ
3/2×23/2×245/32×275/64×2
702.0+1200702.0+1200590.2+1200274.6+1200
T2シャープ
1/1×29/8×2135/128×215/8
0.0+1200203.9+120092.2+12001088.3
B1F(Eシャープシャープシャープ
5/4675/51245/3245/32
386.3478.5590.2590.2
B2シャープ
1/115/8×1/2225/128×1/215/8×1/2
0.01088.3-1200976.7-12001088.3-1200

 繋ぎの和音の内、G、H、Dの各音は両方の調に共通(音高も同じ)しているため、そのまま使用します。 問題となるF(Eシャープ)音ですが、 理論上、F音は4/3、498.1cent、Eシャープの場合は675/512、478.5centとなります。 上例ではどちらと解釈しても旋律上の不都合は生じません。 むしろ、和音の響きがEシャープと解釈した方が良くなるため、 ここではEシャープとして処理してみました。

 ところで、5調の5和音の導音(この場合Eシャープ)は通常、 増一度進行をして5の属7和音の第7音(この場合E)に進む事が多く、 また、転調前についても5の属7和音の第7音(この場合F)は5の音(この場合G)から到達する事が多いので、そんな例を挙げてみます。 (559nf第5音下方変位和音は進行や配置制限が多いので、 多少無理矢理ですが)

転調例2

T1F(Eシャープシャープ
5/4×23/2×24/3×25/4×2×275/64×2
386.3+1200702.0+1200498.1+1200386.3+1200274.6+1200
T2シャープ
1/1×21/1×215/8225/12815/8
0.0+12000.0+12001088.3976.71088.3
B1シャープシャープ
3/23/23/245/3245/32
702.0702.0702.0590.2590.2
B2シャープ
1/15/49/8135/12815/8×1/2
0.0386.3203.992.21088.3-1200

 この場合はT1のG−F(Eシャープ)の進行に問題がでました。 Eシャープ(675/512、478.5cent)と解釈すると移動量が大きくなり過ぎるため、 F音と解釈する事になります。
3、属7、属9を付加6、付加4−6に転義する転調

転調可能性 属7=付加6  転調可能性 属9=付加4−6

 次は属7和音を付加6音上方転位和音に、また属9根音省略形体和音を付加4−6和音に読み替える事による転調法です。 後者では転調は発生していませんが、転義の解釈という意味で扱っていきます。
 これらも前述した注意事項に従って解釈していきます。

転調例 属7=付加6

T1F(Eシャープシャープ
3/2×24/3×245/32×2
702.0+1200498.1+1200590.2+1200
T2
5/4×29/8×29/8×2
386.3+1200203.9+1200203.9+1200
B1
1/1×215/827/16
0.0+12001088.3905.9
B2
1/13/29/8
0.0702.0203.9

 T1の音程はEシャープと解釈するともう少し低い可能性がありますが、 この音はもともと上方変位音であり、こうした変位音は縦の和音よりも横の旋律の都合が優先される事を考えると、 Fと解釈した方が旋律的に良好となります。これはE−F−Fシャープと進行した場合も同様。
 尚、B1の進行がC−H(111.7cent)、H−A(182.4cent)となるのはやや不自然ではありますが(半音と全音の差が余りない)、 転調進行という事で許容範囲でしょう。

転調例 属9=付加4−6

T1フラットフラット
6/5×29/8×29/8×26/5×2
315.6+1200203.9+1200203.9+1200315.6+1200
T2
1/1×215/815/81/1×2
0.0+12001088.31088.30.0+1200
B1フラット
3/23/28/53/2
702.0702.0813.7702.0
B2
1/13/24/31/1
0.0702.0498.10.0

 こちらでは転調が発生していないため特に注意する事はありません。 ただ、D音については以前低い方(10/9、182.4cent)を指定した事がありましたが、属9、 付加4−6ともに不協和音である事から横の旋律を重視した音高を考察した方が適切です。 そうなると後のEフラット音(6/5、315.6cent)との関係からD音は高い方が適当という事になります。
4、増3和音の異名同音読み替え等による転調

増3和音

 増3和音とは上記のように長三度を重ねた和音の事、ギターコードで言うオーギュメントに当たる和音です。 和声学的には下記のように長三和音の第五音上方変位和音、もしくは高次の付加音が付いた和音に解釈されます。

和声的解釈

 また、この和音は異名同音解釈によって下記のような読み替えが可能とされ、都合9つの解釈が可能です。

同一和音の別解釈

 さて、これらの和音を具体的にどう解釈していくか。 実は複雑そうに見える5の付加13和音の方が確定し易かったりします。 この和音は付加13音(原理的には第五音の上方転位音)が後に続く1和音の第三音へ保留解決、 もしくは根音へ三度下行するため、この音をはじめ構成各音の具体的音高は確定し易いです。
付加13和音の解決
T1フラットフラット
6/5×26/5×2
315.6+1200315.6+1200
T2
15/81/1×2
1088.30.0+1200
B1
3/23/2
702.0702.0
B2
3/21/1
702.00.0
 つまり、付加13音<長三度>根音<長三度>第三音の関係と解釈できます。

 問題は第五音の上方変位の場合。 この上方変位音は本来5和音1和音展開において、 5和音の第五音から1和音の第三音への上行進行を助けるための変位であるため、 和音の響きよりも旋律の都合が優先されます。

第五音上方変位和音の解決
T1シャープ
9/8×21215/1024×25/4×2
203.9+1200296.1+1200386.3+1200
T2
15/815/81/1×2
1088.31088.30.0+1200
B1
3/23/23/2
702.0702.0702.0
B2
3/23/21/1
702.0702.00.0
 Dシャープの音高をHの長三度上と解釈すると75/64、274.6centとなり、 後のEとの差は111.7centであり、悪くはないですがやや広い気がします。 前述のEフラットとすると高すぎて不自然になります。 DシャープとEの音程差は90cent位(295cent前後)がもっとも自然に聞こえるようです。
 また、和音の響きについては現代和声での属7和音の実験と同様、各音律毎に行いましたが、 特に大きな違いは感じられませんでした。

 これらを踏まえて転調進行を考察してみましょう。パターンが多すぎるので一部のみ例を上げる事にします。

G-gis転調
T1シャープシャープ
9/8×29/8×275/6475/64
203.9+1200203.9+1200274.6+1200274.6+1200
T2
15/827/1615/815/8
1088.3905.91088.31088.3
B1シャープG(Fシャープシャープシャープ
3/245/32375/25625/16
702.0590.2660.9772.6
B2シャープシャープ
3/29/875/6425/16
702.0203.9274.6772.6-1200

 まずは変位和音を付加13音和音へ読み替える事によって生ずる増一度転調です。 これはこれまで解説していない転調パターンです(C−Des、C−Hの短二度関係とは別物です)。 ここでは絶対音Hが両調の音階に共通している(Gdurの3、 Gismolの3)ので、これを同一音程と解釈して音階を確定しました。 また、異名同音となっているG音は転調後のFシャープシャープと解釈すると和声展開的にも進行的にも良好となります。
 ここでのG−Gis転調における基音の比率関係は

G3/2−Gis25/16 = G1/1−Gis25/24

となります。
C-c転調
T1シャープ(Eフラットフラット
5/4×26/5×26/5×2
386.3+1200315.6+1200315.6+1200
T2
1/1×215/81/1×2
0.0+12001088.30.0+1200
B1
3/23/23/2
702.0702.0702.0
B2
1/13/21/1
0.0702.00.0

 同じく変位和音を付加13音和音へ読み替えるパターンですが、今度は長−短調の転旋です。 基音が同じであるためほとんどの音階は共通と考えられます。 問題となるDシャープ(Eフラット)の具体的音高は後の和音への接続を考慮すると、 Eフラット6/5(315.6cent)と解釈する方が適切でしょう。
E-Es転調
T1シャープシャープシャープ(G)フラット
25/16×23/2×25/4×23/2×2
772.7+1200702.0+1200813.6+1200702.0+1200
T2
15/815/81/1×29/5
1088.31088.30.0+12001017.6
シャープ(Eフラットフラットフラット
5/46/56/56/5
386.3315.6315.6315.6

 今度は変位和音同士の異名同音読み替えによる増一度転調です。 限定進行音(導音、転位音、変位音等)は重複できないという和声学上の制約のため、 ここでは3声部で作ってみました。
 この進行では両音階の共通音であるG(Emolの3、 Esdurの3)が登場しない(Emol側は上方変位音なので、 あくまでFシャープシャープ)ので、 この例のみでは転調前後の両音階の相対関係を厳密に確定する事はできません。 実際の楽曲全体の調性の展開から解釈する必要があります。
 ここでは増一度転調の標準的な解釈という事で前述したG−Gis転調と同様、

E5/4−Es6/5 = E1/1−Es24/25

という基音関係として各音程を解釈しました。
 Fシャープシャープ(G)、 Dシャープ(Eフラット)は、 いずれも転調後(G、Eフラット)と解釈する方が各声部の展開が滑らかになります。
H-C転調
T1シャープシャープシャープ
75/64×2135/128×275/64×25/4×2
274.6+120092.3+1200274.6+1200386.3+1200
T2シャープ
15/8225/12815/81/1×2
1088.3976.61088.30.0+1200
シャープシャープシャープ(G)
15/845/32×1/23/2×1/21/1
1088.3590.3-1200702.0-12000.0

 次は変位和音同士の異名同音読み替えによる短二度転調。これも上例と同様、制約から3声部で作成しています。
 ここでは絶対音Hが両音階に共通であるので、以前解説した転調と同様の基音関係となります。 Fシャープシャープ(G)は転調後のGと解釈する方が旋律的に良好でしょう。
e-C転調
T1シャープ
5/4×275/64×25/4×2
386.3+1200274.6+1200386.3+1200
T2
15/815/81/1×2
1088.31088.30.0+1200
3/23/21/1
702.0702.00.0

 最後は付加13音和音を変位和音へ読み替える転調。G、Hが共通しているので特に問題はありません。 Dシャープはテンポの都合で旋律進行を優先するならもっと高い音(295cent位)とするのも良いでしょう。
5、増3−4和音間の異名同音読み替え等による転調

増3−4和音異名同音読み替え

 増3−4和音は上記左のような和音(属7、属9の第5音下方変位和音の第二転回形。 この場合、低音の下方変位第5音と第3音が増6度関係となる。こうした和音の内、低音と長三度、増四度の関係となる第7音、 根音がある属7の第5音下方変位和音の第二転回形を増3−4和音と呼ぶ。 )の事を言うのですが、異名同音読み替えを行うと右のように解釈する事も可能となります。 この事から下記のように多様な調による和音解釈が可能となり、それら相互の調間の転調も可能となります。

同一和音の別解釈

 これらの解釈ですが、ひとまず、これまでの転調解釈から各々の調の相対音階(長短共通、 CdurのC=1/1、0.0centとする)を求めておきましょう。これらの音階の組み合わせで始まったり、転調後に到達する事になります。

6フラット 6 7フラット 7 1 2フラット 2 3フラット 3 4 5
1/125/249/875/645/44/345/323/225/165/315/8
0.070.7203.9274.6386.3498.1568.7702.0772.6884.41088.3
0.0-29.3+3.9-25.4-13.7-1.9-31.3+2.0-27.4-15.6-11.7
3フラット 3 4 5 6フラット 6 7フラット 7 1 2フラット 2
1/125/2410/95/44/325/183/225/165/316/915/8
0.070.7182.4386.3498.1568.7702.0772.6884.4996.11088.3
0.0-29.3-17.6-13.7-1.9-31.3+2.0-27.4-15.6-3.9-11.7
1 2フラット 2 3フラット 3 4 5 6フラット 6 7フラット 7
1/116/159/86/55/44/33/28/55/39/515/8
0.0111.7203.9315.6386.3498.1702.0813.7884.41017.61088.3
0.0+11.7+3.9+15.6-13.7-1.9+2.0+13.7-15.6+17.6-11.7
2 3フラット 3 4 5 6フラット 6 7フラット 7 1 2フラット
81/8027/259/86/527/2036/253/281/5027/169/548/25
21.5133.2203.9315.6519.6631.3702.0835.2905.91017.61129.3
+21.5+33.2+3.9+15.6+19.6+31.3+2.0+35.2+5.9+17.6+29.3
フラット 6 7フラット 7 1 2フラット 2 3フラット 3 4 5 6フラット
1/127/259/86/532/2527/2036/253/28/59/548/25
0.0133.2203.9315.6427.4519.6631.3702.0813.71017.61129.3
0.0+33.2+3.9+15.6+27.4+19.6+31.3+2.0+13.7+17.6+29.3
フラット 5 6フラット 6 7フラット 7 1 2フラット 2 3フラット 3 4
16/15256/22532/2732/254/364/451024/6758/5128/7516/9256/135
111.7223.5294.1427.4498.1609.8721.5813.7925.4996.11107.8
+11.7+23.5-5.9+27.4-1.9+9.8+21.5+13.7+25.4-3.9+7.8

 この転調法で最も多いと思われる、前後の調双方からみて、ダブルドミナントととなるパターン。 以下の例では転調前のAmolの和音と解釈していますが、B1パートが同一音(F)で違う高さになっていたりして、やや無理があります。
A-Es転調
T1シャープ(Eフラットフラット
5/4×275/64×29/8×26/5×2
386.3+1200274.6+1200203.9+1200315.6+1200
T2フラット
5/35/38/53/2
884.4884.4813.7702.0
B1フラット
5/34/327/206/5
884.4498.1519.6315.6
B2H(Cフラットフラット
1/115/8×1/29/5×1/26/5
0.01088.3-12001017.6-1200315.6

注意
 本来、構成各音の具体的音高を正確に確定できるのは協和音だけであり、 不協和音(各構成音間の周波数比率の内、どれか一例でも15:16より複雑な比率になる和音)単独では構成各音の具体的音高を確定する事はできません。 現代和声内での減五度音程の実験を見ると解るように、 200年前後に渡って常に10〜20centの誤差がある音程関係を響き、機能ともに同義として扱ってきた歴史を考慮すると、 こうした音程関係を正確に決める事は必要ではないと考えます。
 本項での処理はあくまで和音の機能的側面を考慮して、前後の和音との関係から和音の響き、旋律進行に破綻をきたさないように、 また、音階全体の音の数を減らそうという目的から、既存の音階構成音の組み合わせによって表現しているに過ぎません。


6、その他の転調技法について

 残念ながら、純正律でなんとか解釈できる転調技法は前項までです。 以下の技法はなんらかの方法で確定されている十二音階を前提としたものであるので、 純正律では音階、和音構成各音の具体的音高を確定する事ができません。
 以下、各技法について簡単な解説をしておきます。

1 全音音階
 オクターブを均等に6つの全音に分割した音階。三度、五度の和音を基本として構成される純正律ではこうした音階は構成できません。
 上述した増3−4和音を保続した上でこの音階を旋律として用いる場合があるようですが、 こうした場合は旋律の聞こえ方を優先して平均律で処理するのが適切でしょう。 (旋律としてはオクターブを均等に六等分した音程幅が適切ではないかと考えられるので。)
全音音階
2 半ずれ調、半ずれ和音
 近代以降、ある調を半音(増一度関係)高く、もしくは低くずらす事が行われる。これを半ずれ調と呼ぶ(下図1)。 また、一つの調の和音展開の中で、ずれが発生した場合は半ずれ和音が生じる。 下図2において、15の展開は左端の白音符同士のように行われるが、 これが黒音符のどちらかへ進行する。
 こうした「ずれ」は純正律では、ずれ量を確定できません。 下図2の右端のように異名同音と解釈できる場合(前後の関係から判定する)を除くとお手上げとなります。
半ずれ調

1 半ずれ調

半ずれ和音

2 半ずれ和音


7、複調

 同時に二つ以上の調が登場する事を複調といいます。
 これの解釈は実曲例を余り見た事がないため確実な事は言えませんが、考えられる方法を述べておきます。

 複調の場合、いずれか一つの調が主で他の調は従という関係があるようなので、 従となる調を主となる調の内部調と解釈する事によって処理が可能と考えられます。


五、転調関係の総括

 これで純正律で可能な転調が出揃いました。そこで主調と転調可能調との比率関係を示してこの章のまとめとします。
 第4項で示した内部調に加えて、第5項の転調技法で生じた調関係を加えて以下のようになります。

主調と転調可能調の関係
1シャープ調
(5/3)2(3/2)1
4シャープ調 7調3調 6調2調低
5/3(3/2)35/3(3/2)25/3(3/2)15/3 5/3(3/2)-1
2調5調 基調調4調
(3/2)2(3/2)1(基)(3/2)-1
7フラット調 3フラット調 6フラット調 2フラット調 5フラット調
3/5(3/2)13/53/5(3/2)-13/5(3/2)-2 3/5(3/2)-3
1フラット調
(5/3)-2(3/2)-1

実験室
実験室に戻る
戻る
トップページに戻る