翻訳者大西央士の作品紹介 |
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サスペンス |
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![]() 黒十字の騎士ジェイムズ・パタースン著 2004年ソニーマガジンズ刊 定価各940円 |
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| 中世の第1回十字軍の時代をひとりの若者が生き生きと、伸び伸びと生きていく物語です。 彼の名前はユーグ。母親の、聖職者との道ならぬ恋の産物として生まれた子供ゆえ、旅芸人や吟遊詩人の一座に預けられて育った彼は、なにごとにも不自由だった封建社会のなかでは珍しく自由な心の持ち主でした。 でも、恋をして、ともに暮らしたい人ができ、そんな彼も封建社会のしがらみのなかに身を落ち着けるのですが、そこはもう日々理不尽な出来事の連続です。自由に育ったユーグは、なんとかそこから自由な暮らしへの脱出を夢見るようになります。 そんなとき、住んでいた村の近くの山から聞こえてきた轟くような人の声。なんだ?──自宅の宿屋の2階から外を見た彼の目には、信じられないような大群衆の行列が見えます。 隠者ピエールに率いられた、歴史的にも名高い「民衆十字軍」の希望にあふれた歌声でした。ローマ法王が聖地奪還の戦いに参加した者には自由を約束していました。封建社会の人々がなによりほしがっていた自由の未来がそこにはあったのです。 ユーグは高鳴る胸を抑えていることができませんでした。愛する妻を残して東方へ旅立つのは気のひけることでしたが、その旅のあとにこそ、愛する妻との自由な暮らしが待ち受けているのだ──そう思った彼は、民衆十字軍のあとで出発したレーモン伯爵の十字軍の隊列に加わります。 さて、ユーグは自由を手に入れられたのでしょうか? いくさは人をけものに変えます。いくらそれが手段とはいえ、けもののような行為の向こうにある自由とはなんなのか? ユーグは途中で、けもののような行為の向こうにある自由をあきらめ、不自由でも、良心を失わず、心の安らぐときのあるささやかな暮らしを求めます。 それなのに……。ユーグを待っていたのはあまりにも残酷な現実でした。さあ、そこからがユーグの本領発揮です。自分にとって、この世でなによりも大切なものを奪う者がいるとしたら、相手が誰だろうとかまうもんか、やっちゃえ、やっちゃえ。 ユーグは大きな敵に立ち向かうために道化師になります。宮廷道化師です。人はいつでも喜び、楽しみを求めるものです。ただ年貢を納め、取り立てるだけで人の暮らしがことたりようはずがありません。民衆は仲間内で冗談やほら話を交わし、治世者は治世者で、日々の宮廷行事に笑いの味付けを求めました。要するに、文化ですね。その味付けをする役どころを引き受けていたのが宮廷道化師であり、治世者に満たされた心を届ける役どころですから、もちろんその役目は重要で、治世者のごくごく近くにまで接近することができました。 笑いならまかせときな──その心意気でにっくき公爵の城に侵入したユーグは縦横無尽の大暴れ。挙句の果てには……。 さてさて、かくも楽しき大冒険活劇。どうぞ伸び伸びとお楽しみください。 編集:
石懸康夫 |
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![]() ビーチハウスジェイムズ・パタースン著 2003年ソニーマガジンズ刊 定価各780円 |
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| アメリカは正義をお金で買える国なのでしょうか。 日本でも有名になったО・J・シンプソン事件やジョンベネ事件を見ていると、そんな疑問が頭をもたげてきます。 もちろん、日本人でもそうなのですから、アメリカ人が同様の疑問をいだかないはずがありません。 本書は、全米きってのベストセラー作家、ジェイムズ・パタースンさんが、世界有数の金満別荘地、ニューヨークのロングアイランド東部を舞台に、そのような疑問が湧いてくるストーリーを展開し、主人公の弁護士志望の青年ジャック・マレンに、庶民の代表選手としてほんとうの正義を追求させる痛快なリーガルサスペンス小説です。 ジャックは優秀な青年ですが、決してスーパーマンではなく、金満別荘地と隣り合った漁師町のアイルランド系カトリックのコミュニティで育った自分の実像から少しも背伸びすることなく、世界のスーパーリッチを相手に、あっと驚くような手も使いながら、弟ピーターが殺された事件の背景を暴いていきます。 ジャックのおじいさんのマクリンの骨太な人柄や、妙な色気をふりまかないジャックの恋人ポーリーンの、強くて、まっすぐで、素朴で、何とも言えぬやさしさや弱さも持った人柄などもいっしょにお楽しみいただける、読みごたえのある小説です。 じっくり味わってください。 編集:
石懸康夫 |
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![]() ケアリ家の黒い遺産(上・下)リチャード・ノース・パタースン著 2000年扶桑社刊 定価各700円 |
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| アメリカで大ベストセラーとなり、日本でも高い評価を受けた法廷サスペンス『罪の段階』の作者リチャード・ノース・パタースンさんがその2作前に発表していた作品(第3作)です。 処女作『ラスコの死角』以来、父親から息子へと受け継がれる「血」や、両者の間の心の葛藤といったものをテーマに大作を書きつづけているパタースンさんが、その関心をもっともストレートに表現した作品と言ってもいいかもしれません。 舞台は、人間性と物質文明との葛藤がどこよりすさまじく、林立する摩天楼群の陰で多くの人が孤独にうごめく精神分析の都ニューヨークです。 無学歴の出版社の使い走りからその会社のセールスマンへと転身して業績をあげ、社長の座までのぼりつめた父親。その途中で、家庭を犠牲にしても必死で摩天楼の頂点までのぼりつめようとする父親の愛情を受けずに育った貧しい精神的背景をかかえながら、結果として父親が摩天楼群のなかに築きあげた一家の地歩を守るべく、エリート大学に通い、華やかな御曹司の仮面をまとった長男。そのかたわらで、そんなうわべだけの華やかな御曹司の仮面すらうまくまとえずに劣等感と嫉妬の念にさいなまれる次男。そんな息子たちの後継者争いの火種として生まれてきた3代目は、その父親、すなわち、自分の少年時代を憎悪し、なんとかいい父親になろうとする長男によって大切に大切に育てられますが、立身出世の時代に家族の心の奥深くに押し込められた人間性の反動は息子の代ではとどめることができず、愛くるしい少年に育ったその孫までのみ込み、彼もまた、この街の孤独な住民たちと同様、精神分析医のもとへと通いだします。 時代は、戦後の冷戦期です。冷たい戦争の陰では、暗躍している男たちがいました。そして、その男たちも摩天楼の頂点でひずみをかかえた先の息子たちと同様に、人間的な時代からうわべだけ豊かな物質文明の時代へと変貌する社会のひずみをかかえて育っていました。 やがて、そんな表舞台の「ゆがんだ息子たち」と街の底に生きる闇の世界の「ゆがんだ息子たち」が、冷戦がもたらした赤狩りの気運のなかで人生の歩みを交錯させます。 醜い内面をかかえながらも表面では御曹司の仮面をかぶったまま火花を散らす「表舞台の息子たち」。その陰で、彼らがあらわにできないものをむき出しにしながら生きていく「闇の世界の息子たち」。 この作品は、そうしたふたつの流れを追いつつ、彼らのゆがみのせいで愛くるしい少年期の思い出を失った3代目の内面の世界を、パタースンさんお得意のフラッシュバックの手法を駆使して織り交ぜながら進行していきます。
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