翻訳者大西央士作品紹介

 

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ポートレイト 1952年、オハイオ州生まれ。

 同州は探偵ベン・パーキンズ・シリーズのおもな舞台であるデトロイトのすぐ南の州。

 行動派探偵ベン・パーキンズの足跡にもちょくちょく登場し、第1作の『探偵ベン・パーキンズ』でベンが真っ先に調査に飛ぶのがオハイオ州シンシナティなら、第5作『過去からの影』で彼が女殺し屋アンジーを追って夜なかに行き着くのもオハイオ州トレド

 1978年、ミシガン州イプシランティイースタン・ミシガン大学卒業。

 広告代理店に勤務しながら小説を書きはじめる。

 この経歴がのぞくのが、第5作『過去からの影』と第6作『二十五年目の墓標』。イプシランティのとなりのアナーバーにある広告代理店が登場し、そこの共同経営者のひとりがやたらと詳しい印刷の専門知識を披露する。

 ただし、そういう自分の歩んできた世界がそのまま小説の世界全体を構成していないところに、作家ロブ・カントナーさんの内面のありようが表れている、と訳者のわたしは見たい。

 デトロイトの西約50kmにあるイプシランティは、名門ミシガン大学があるアナーバーとならぶ大学町。日本にもあるピザの宅配チェーン、ドミノ・ピザの発祥地であることからもわかるように、昔の自動車貴族≠スちが築いた古いデトロイトから離れ、若い世代が自由な発想で勝負をする、まあ、エレクトロニクス業界で言えばシリコン・バレーのようなところ。ニューエリート、ヤッピーたちが多く集まり、工員の家庭に育ったアパートの管理人探偵ベン・パーキンズの目からは、冷ややかなタッチで描かれている。ちなみに、古き良きデトロイトを愛しながら、犯罪都市と化していく現在のデトロイトからは距離をとり、さりとてヤッピーたちの集まるこういう町にもはいっていけないベン・パーキンズは、デトロイトとイプシランティとの中間のベルビルという小さな町に住んでいる。

 デビュー作は、Alfred Hitchcock Mystery Magazine(俗に言う"ヒチコック・マガジン")1982年9月号に掲載された"'C' Is For Cookie(「C」はクッキーのこと)"。ベン・パーキンズもこのときはじめて登場し、以後、数々の短編や長編のなかで一貫したストーリーを展開していく。

 長編デビューは1986年の"The Back Door Man"。これが探偵ベン・パーキンズ・シリーズ第1作の『探偵ベン・パーキンズ』で、いきなり年間最優秀ペーパーバック賞を受賞。また、この年出版された"Mean Streets(卑しい街を行く)"というアンソロジーに収録された"Fly Away Home(二人のモーリーン)"という短編も年間最優秀短編賞を受賞。

 賞をとった作品は、1988年年間最優秀ペーパーバック賞受賞の"Dirty Work"(探偵ベン・パーキンズ・シリーズ第3作の『囁きの代償』)も含めて3作をかぞえ、1980年代を代表するアメリカの探偵小説作家のひとりとなる。

 なんだ、主人公ベン・パーキンズは世のなかの底辺をはいずりまわる人間味あふれる探偵でも、作家のほうはたいへんなエリートじゃないか━━と思われるかもしれない。

 もちろん、そうでないとは言わない。

 だが、カントナーさんが決して一段高い視点から低いところにいるベンを描こうとしているわけではないことは、作品を読んでいただければ、おわかりになるだろう。

 それに、このカントナーさんには、ちょっと変わったところがある。

 短編、長編のベン・パーキンズ・シリーズを発表している間に、その一方でロマンス小説やノンフィクションを書いていたこともさることながら、さらに探偵小説作家の枠を逸脱して、1987年、つまり、探偵小説界で次々と賞をとった翌年からすでに、企業の品質保証マニュアルの作成にもたずさわっていた(ちょっと門外漢のかたにはおわかりにならないかもしれないが、アメリカで最初にISO/QS-9000の訓練プログラムを開発したのは彼らしい)。

 いやはや、多才なかただ。

 で、その多才ぶりが、わたしが担当した4作のなかにもいかんなく発揮されている。

 とにかく文章が流暢で、ユーモアにあふれ、ディテールだけでも読者を楽しませてくれる。

 また、アメリカの現代文化を理解するキーワードがふんだんに盛り込まれており、訳しているうちに、もしかするとこれはアメリカの現代文化研究のひとつのサブテキストになるのではないかとも思わされたほどだ。

 長編ベン・パーキンズ・シリーズは、ここで紹介した扶桑社の邦訳シリーズのあとにも3作発表されているが、1994年の"Concrete Hero"を最後に、アメリカでも発表されていない。

 ただし、ベン・パーキンズ・ファンのみなさんには、期待のもてる話がある。

 しばらく作家活動を休止し、ビジネス・コンサルタント業に重点を移していたロブ・カントナーさんが、ここへ来てまたヒチコック・マガジンに短編を発表しており、なかには、われらがベン・パーキンズ物も2作ほど含まれている。

picture credit: by courtesy of Rob Kantner

 

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