翻訳者大西央士の作品紹介 |
||
探偵小説 |
||
|
![]() トレント最後の事件E・C・ベントリー著 1999年集英社文庫刊 定価700円 |
|
| ミステリー・ファンにはおなじみの英国ミステリーの古典です。若き売れっ子画家の自由人フィリップ・トレントが、新聞社からの依頼を受け、保養地で起きた米国の大富豪殺人事件を推理します。 しかし、この小説の目玉はその事件やトリックばかりではないでしょう。なにより魅力的なのは、主人公フィリップ・トレントのキャラクターです。生き生きとしていて、ちょっとおっちょこちょいで、お決まりのパターンにはおさまらないナマの人間味を随所にのぞかせています。 作者のベントリーさんは本業の新聞記者が忙しく、実質的にはこの1作だけで終わった人ですが、いまでも生きていたら、ミステリーにかぎらず、もっと多くの小説を書いてほしかったかたです。ミステリーを単なる謎解きには終始させまいとする――おれは人間を描くんだという――気概や批判精神が伝わってくる作品です。
ミステリー・ファン必見のホームページ
! |
||
探偵ベン・パーキンズ・シリーズ 以下の4冊は扶桑社ミステリー文庫におさめられているロブ・カントナーさんの「探偵ベン・パーキンズ・シリーズ」の作品です(第2作と第4〜6作で、第1作『探偵ベン・パーキンズ』は大井良純さん、第3作『囁きの代償』は村山汎さんの作品です)。 自動車の町にしてモータウン・サウンドを生んだ音楽の町デトロイト。そんな町の片隅で、映画の『アメリカン・グラフィティ』の世界を謳歌しながら育ったベン・パーキンズ。このシリーズに登場するのは、そんな時代のあとに起きた、性革命や麻薬の蔓延といった世の荒波に洗われ、傷つき、さまよううちに、いつしか思いも寄らないところに行き着いたベンで、世のなかへの不満を胸に秘めながらも、デトロイト郊外のベルビルでアパートメントの管理人をしながら探偵の仕事に奔走するその姿には、日本の団塊の世代≠ノ通ずるものがあるような気がします。訳者のわたしは、それよりややあとの世代に属しますが、若き日の蛮行、アパートの管理人経験など、ベンとの共通点が多々あり、「うん。そう、そう」と心のなかでつぶやきながら、夢中になって訳した4冊です。どうかカントナーさんのユーモアとレトリックの妙をお楽しみいただければと思います。 |
||
![]() 危険な報酬ロブ・カントナー著 1994年扶桑社ミステリー文庫刊 定価640円 |
||
| 二日酔いでダウンしていたベンのもとへ、朝っぱらから「テレビ局へ来てほしい」という電話がかかります。その局の人気番組にゲストで出演する女霊能者が会いたがっているというのです。 しぶしぶ出ていったベンは、その霊能者から「運勢を見てほしいと言ってきた若い女が行方不明になっていて、どうも悪いことに巻き込まれているような気がするので、調べてほしい」と頼まれます。調べてみると、その女は、男を排除したフェミニズムの世界にいたらしいのですが、どういうわけか新聞に「ボーイフレンド募集」の広告を出していて、それがきっかけで、闇の世界でひそかに製作されていたきわどいポルノ・ビデオに出演していたこともわかります。そしてそのビデオの陰に表向きは健全な実業家を装った悪党どもがいることを突きとめたベンは自分の超軽量飛行機(ウルトラライト)に乗って悪の巣窟へと飛び込んでいきます。 どの作品もそうですが、息づまるカーチェイスやひねりのきいた登場人物たちのセリフなどにカントナーさんの力量のほどがうかがえる作品です。
|
||
![]() 狂った果実ロブ・カントナー著 1994年扶桑社ミステリー文庫刊 定価660円 |
||
| ベンのかつての恋人リンの夫ジェリーが膵臓癌で余命いくばくもない状態にあります。 ところが、息子のケビンは家出をしていて、所在がわかりません。リンから息子をさがしてほしいと頼まれたベンはさっそくケビンが通っていたハイスクールへ行って彼の行状を洗いますが、そこで浮かび上がったのがナチへの傾倒です。 ケビンも自動車の都デトロイトを支えていた労働者の息子です。自動車産業の衰退で消沈し、荒廃するデトロイトの町で明るい未来を描けなかった彼はネオ・ナチ・グループにはいっていたのです。警察業界の相棒であるミシガン州警察のディック・デネヒイやデトロイト市警のエルビン・ダンスの協力を得てケビンのいどころを突きとめたベンは、荒廃したダウンタウンのはずれにあったその組織のアジトに乗り込んでいきます。 カントナーさんの繰り出すディテールがみごとにかみ合った秀作です。
|
||
![]() 過去からの影ロブ・カントナー著 1995年扶桑社ミステリー文庫刊 定価680円 |
||
| ベンが管理人を務めるアパートメントの若い入居者で、ベンと親しくしていたポールが結婚式の日に乗り込んだ車もろとも爆弾で吹き飛ばされ、直前に車の整備をしていたベンに容疑がかかります。逮捕される前に自分で犯人をつかまえようと思って調査をはじめたベンは、爆破された車のシートに秘密があったのではないかと考えだします。 デトロイトの近辺では、麻薬の売人が次々と殺されていました。ポールが中古屋で買って自分で交換していたシートが麻薬の隠し場所になっていて、次々と売人を消している殺し屋のターゲットになっていたのではないかとにらんだのです。 そんなベンの前にアンジーという女殺し屋が現れます。ベンはその女が怪しいと思い、あとをつけますが、やがてその女も、彼の車を奪ってそれに乗り込んだところで吹き飛ばされます。ポールを殺した犯人の目的は、実はベンにあったのです。 原題が「Made in Detroit」となっていることからもわかるように、荒廃した犯罪都市へと変貌していくカントナーさんの大好きなベンの町、デトロイトへの思いがたっぷりとこめられた作品です。
|
||
![]() 二十五年目の墓標ロブ・カントナー著 1997年扶桑社ミステリー文庫刊 定価686円 |
||
| ベンのところへハイスクール時代の友人ジャネットから電話がかかります。卒業25周年の同窓会を計画しているのだが、連絡のとれない同期生がいるので、その消息を調べてほしいと言うのです。 しかし、ジャネットのほんとうのねらいはほかのところにありました。やはり彼らのハイスクール時代の友人で、卒業式の直前に自殺したサラのことを調べてほしかったのです。 当時のサラには、とても自殺をするとは思えない事情があり、ジャネットはずっと、なにかあるはずだとにらんでいたのです。25年前の事件を調べるというベンの難しい作業がはじまります。それとともに明るみに出るみんなの過去。そこには、麻薬中毒もあれば、少女への性的虐待もあり、ベンたちが『アメリカン・グラフィティ』の世界のあとに歩んできた道のりが浮かび上がります。 そして、最後には、前作でデトロイトへの愛着を吐露したカントナーさんの描きたかった世界がひとつのクライマックスを迎えます。
|
||
| なお、わたしが担当したカントナーさんの作品には、このほかにサラ・パレツキーさんやローレン・エスルマンさんなどの作品とともに『隠れ家』(1995年扶桑社ミステリー文庫刊/定価580円)という短編集に収録された『自分の務め』という短編もあります。この作品も含め、カントナーさんの作品はすべてひとつの流れにつながっているので、できれば初期のものから読まれたほうがよいかと思います。 | ||
|
||
|