TA-N9の写真
SONY TA-N9
MONAURAL POWER AMPLIFIER  ¥350,000
ソニーが1978年に発売した高出力パワーアンプ。MOS FET出力段で500Wもの出力を18kgという比較的軽量で実現
していたのは,当時ソニーが開発していたスイッチング電源「パルスロック電源」の威力によるものでしょう。見た目は業務用
風で,ごく実用的なデザインですが,秘められたパワーは強力な1台でした。                                 

TA-N9の出力段の特徴は,高耐圧パワーMOS FETを5パラレルプッシュプルで用いて,実効出力450W(8Ω),最大出
力500W(8Ω)を得ていることでした。ソニーも,かなり初期からMOS FETを使っていたメーカーで,優れたFETアンプを作
っていたように思います。TA-N9では,ソニーの半導体技術を生かして,自社開発の二重拡散形MOS FETを搭載していま
した。この二重拡散形MOS FETは,スイッチング速度が速い,二次ブレイクダウンがない,入力インピーダンスが大きいなど
のMOSFET本来の特長に加え,高耐圧(210V),大電流特性(10A)を併せ持ち,優れた高域特性を持つなど,裸特性の優
れた素子でした。この優れた二重拡散形MOS FETを生かし,初段にデュアルFETを用いたDC差動増幅回路でカレントミラ
ー負荷,次段は,アクティブロード付きのDCアンプという構成になっていました。パワードライバー段では,パワーMOS FET
の入力インピーダンスが大きいため,小型で高周波特性の優れたトランジスタでドライブしていました。以上のように完全なDC
アンプ構成になっていました。

パワーMOS FETは,優れた特性を持ち,シンプルな回路で高性能が得られる反面,電源部を強力なものにしなければなら
ないといわれています。TA-N9では,500Wもの高出力を支える電源部としてソニー独自のスイッチング電源である「パルス
ロック電源」を搭載していました。「パルスロック電源」は,AC100Vをトランスレス整流回路でダイレクトに整流し,ここで得られ
た直流(正確には脈流)を20kHzのパルス(方形波)に変換,高周波トランスで変圧し,再び整流してアンプの電源電圧を得る
というものでした。高い周波数のパルスを用いるため高効率で,小型のトランスで,大型のトランスを用いた電源と同じ電源供
給能力を持ち,パルス幅制御回路によりパルス幅を制御(ロック)しているので出力の変化に対してもAC電源の電圧の変動
にも強く,電源電圧の変動がなく安定している,パルス整流なのでリップルがほとんどないため,ハムノイズなどがないなど,
優れた特性を持っていました。

TA-N9の「パルスロック電源」では,大出力を安定して得るために,パルスロック電源を大容量化し,+(プラス),−(マイナス)
それぞれにパルス幅定電圧回路を挿入した2電源定電圧方式をとり,中点電圧の変動を抑えた安定した電源供給を図っていま
した。TA-N9の「パルスロック電源部」の内部では,高周波ロスの少ないフェライトコアを用いた円筒形の高周波トランスでパル
ス発振と電磁変換を行い,効率を高めていました。このトランスの巻線には,インピーダンスを下げるために,銅をベルト状にした
線材を用いていました。

「パルスロック電源」は,高周波を扱っているために,電磁波が周囲のアンプ回路に与える影響の問題がありました。そのため,
厳重な電磁シールドを施した密閉構造が取られていました。「パルス電源」と同様の方式の高効率電源は,「スイッチング電源」
「デジタル電源」等とも呼ばれ,他社では,ビクターが試作機を発表したりしていましたが,実用化され,製品として出していたの
は,サンヨーぐらいで,限られていました。よく似た方式としてサイリスタを利用してAC電源をスイッチング制御,小型トランスで
整流するヤマハの「X電源」がありました。パルス電源は,後に,NECの名機A-10の初代機で「リザーブ電源」に使われていま
したが,それ以外にはあまり一般的には使われていません。これは,スイッチングによる電磁波の影響が,アンプ内部や他の機
器に与える影響を抑えきれなかったためといわれています。しかし,デジタル技術が進み,デジタルアンプさえも出てきた現在,
パルスから出るバズの影響をシールドする技術も進んでいるはずですから,もう一度見直されてもいい方式かもしれません。実際
最近では,海外製の高級アンプ(ジェフロウランドDGなど)でも,スイッチング電源がその電源供給の安定性に着目されて新たに
搭載されている例もあります。その意味でも,一歩進んだ先進的なアンプだったといえると思います。

TA-N9の内部
TA-N9では,「パワーMOS FET」「パルスロック電源」に加え,もう一つの特徴として,「ヒートパイプ」の搭載があげら れます。
TA-N9は,高出力アンプであるために,その電流量も大きく,出力段で熱の集中を抑えるためにパワー素子を拡散配置し線材
を引き回すと,B級動作時SEPP回路の半サイクルの信号が電磁波となって初段回路に影響を与える恐れがあります。そこで,
ヒートパイプを用いて熱を高速に放熱フィンに導くクーリングシステムを取ることにより,従来のヒートシンクに比べ放熱能力を大
幅に(50%)高め,出力段のMOS FETの集中配置を可能にして,この問題を解決していました。また,ヒートパイプによる高
効率な放熱システムに加え,DCモーターによる強制空冷ファンも搭載していました。さらに,入力段にはアルミ製シールド板や
シールドパイプなどを用いて電磁波の影響を抑えていました。              

TA-N9は,B級動作450W時にも0.007%の低歪を誇りますが,より理想的なA級動作にも切替可能で,0.005%の超低
歪で80Wの出力を出すことができるようになっていました。アンプゲインをA級/B級で等しくしてあり,前面のスイッチで切替え
て音色の違いを楽しむことができました。その他の機能として,抵抗とロータリースイッチを組み合わせた2dBステップのアッテ
ネーターを装備し,正確に音質劣化の少ない入力レベル調整ができるようになっていました。                 

以上のように,TA-N9は,各部に当時の最新技術を投入したソニーの意欲作ではなかったかと思います。今から見ると,技術
的に未成熟な部分も散見されますが,現在の最先端のデジタルアンプにも通じる先進性を感じる名機だったと思います。
 
 

以下に,当時のカタログの一部をご紹介します。

 


実効出力450W,ひずみ率0.007%。
A級動作で80W。
再生音楽のリアリティを求めた
モノラル・パワーアンプ。          


「ハイ・フィデリティへの執念」が,
新しい技術・素子を求め,変え,発展させました。



 

◎高耐圧パワーMOS FETを採用
  450Wの余裕ある大出力を得ています
◎音の汚れを低減した完全DCアンプ構成
◎電源によるひずみをおさえ,安定したハイパワー
  を支える強力パルス電源(パルスロック電源)
  ●パルスロック電源の特長
   @パルス整流方式なのでリップルがほとんどあ りません
   A高い周波数なので効率が良い
   Bパルスロックしているので無信号時から最大 出力時までの
     リニアリティが良い
   C電源周波数を選びません
◎電磁波の影響を抑えるオーディオ用ヒート
  パイプを採用
◎よりハイ・クォリティな音質へ,A級動作の切替
  え可能
◎アンプの高信頼性を目指し,強制空冷や各種
  保護回路を装備
◎LEDによる6ポイント・ピーク・パワー・インジ
  ケーター
◎2dBステップのレベル・アッテネーター
◎接触抵抗,経年変化を考慮したスピーカー
  ターミナル
◎C-COUPLED端子つき

 
 

●主な規格●


形式 モノラルパワーアンプ
回路方式 アンプ部:全段直結ピュアコンプリメンタリーSEPPDCアンプ
電源部:パルスロック電源
使用半導体 MOS FET 10石,FET 1石,IC 7個,トランジスタ72石,ダイオード55個
実効出力 450W(20Hz〜20,000Hz,8Ω負荷時,高調波歪率0.007%)B級動作
80W (20Hz〜20,000Hz,8Ω負荷時,高調波歪率0.005%)A級動作
最大実効出力 500W(20Hz〜20,000Hz,8Ω負荷時,高調波歪率0.03%)B級動作
100W(20Hz〜20,000Hz,8Ω負荷時,高調波歪率0.03%)A級動作
高調波歪率 0.007%以下(実効出力時)
混変調歪率 0.007%以下(60Hz:7kHz=4:1,実効出力時)
ダンピングファクター 300(1kHz,8Ω)
残留雑音 22μV以下(8Ω,Aネットワーク)
SN比 128dB以上(8Ω,B級動作,クローズドサーキット,Aネットワーク)
120dB以上(8Ω,A級動作,クローズドサーキット,Aネットワーク)
周波数特性 DC〜300kHz +0,−1dB(ダイレクト時)
入力感度 2.5V(8Ω,B級動作)インピーダンス50kΩ
1.1V(8Ω,A級動作)インピーダンス50kΩ
出力端子 4〜16Ωのスピーカーに適合(B級動作)
8〜16Ωのスピーカーに適合(A級動作)
電源 AC100V 50/60Hz
消費電力 450W
大きさ 480幅×185高さ×500奥行mm
重さ 18kg
※本ページに掲載したTA−N9 の写真,仕様表等は1978年11月のSONYのカタログ
 より抜粋したもので,ソニー株式会社に著作権があり ます。したがって,これらの写真
 等を無断で転載・引用等することは法律で禁じられて いますのでご注意ください。        
  
 
 
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