あれ?無い、無い。
中啓が無〜い
何処だ、何処へいった。
さっき若狭之助が出ていって床几に座ったときは右手に確かに持ってた。

懐に刺してから立ち上がったはず。
懐に落ち込んだか?いや無い。
上手から下手へ歩いてきた途中で落としたのか?落ちてない。
落として長袴で踏んでるんだろうか?
芝居の途中であまり仰々しく探せないし。
舞台の袖で黒子をやっている矢田さんに「無いよぉ」と目で合図を送る。
あ、もう判官の台詞が終わっちゃう。
もう仕方がない。芝居を止めるわけには行かない。
手で仕草をして続けよう・・・・・・。
トラブルがあったにしては以外と舞い上がったりせず平然と台詞が口から出る。
客席から「しかし上手いなぁ。」との声が結構聞こえる。
大丈夫だ、いける。
終盤矢田さんが白扇を手渡してくれたので代用する。
幕が無事引かれて体を改めてみると。
あった!こんな処に、どうして?
懐から滑り落ちて袂に入り込んで鎮座してましてた。
はぁ、思わずため息が・・・・。
演技指導の矢田さんも「50年以上ここで芝居をやってるけど
こんな事故は聞いたことも見たこともない。」だって。