「魔 王」

無気味な三連符・・・。それにかぶさる、風のざわめきのような音。

聴く人の背中を、ぞっと寒気が走るようだった。

強風の中を、全力で走る馬のひづめの音。

そのひづめに合わせて、歌が始まる・・・。

 

こんな夜更けに、闇をついて馬を走らせるのは誰だ?

それは子供を連れた父親。

子供をしっかりえお胸に抱きしめている。

 父:

なぜそんなに怖そうに顔を隠すのだ?

 子:

お父さん、お父さんには魔王が見えないの?

 父:

坊や、あれは流れる霧だよ。

魔王:

かわいい坊や、わしと一緒においで。おもしろい事をして遊ぼう

岸辺には綺麗な花が咲いている。わしのお袋さんは、金の着物を持っているよ。

 子:

お父さん、お父さん。聞こえないの?

魔王が僕に、こっそりささやいているよ。

 父:

坊や、落ち着くんだよ。枯葉が風に鳴っているだけだよ。

魔王:

かわいい坊や、わしと一緒に行こうよ。うちの娘達が、お前を待っている

お前をライン岸に連れて行って、踊ったり歌ったりしてくれるよ。

 子:

お父さん、お父さん。見えないの?

あの暗い所に、魔王の娘達がいるよ。

 父:

坊や、坊や、見えるとも。あれは、古い柳の木の影だよ。

魔王:

わしはお前が大好きだ。かわいくてかわいくて、たまらない。

もし嫌いというのなら、力ずくで連れてゆくぞ。

 子:

お父さん、お父さん、つかまっちゃったよ!

魔王が僕を 、ひどい目にあわせる!

父親は、恐怖に駆られて必死に馬を走らせた。

あえぐ子を抱きしめて、家に帰り着いてみれば、その子は腕の中で

息絶えていた・・・。

 

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